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レビュー

審査員講評 あごうさとし 氏

  • 総評

 一言で演劇といいましても、内容は多岐にわたります。とりわけこの20年ほどは、国内の舞台芸術環境は、過去100年に照らしてみても、急速な変化や広がりを見せたのではないでしょうか。舞台芸術の専門学科を備えた大学も開設され多くの人材を輩出してきています。長らく総合大学の演劇サークルが、学生演劇を牽引してきた過去がありますが、ここにも多様性が出てきていると思われます。なるべく多くの作品を見て、見聞をひろめて、自らの創作活動を考えられることをお勧めします。何をどのように、どこへ表現されるかで、自ずとそれぞれの道が見えてくることと思います。

 この度の演劇祭では、就活など、今迫られている「未来の選択」というところが、多くの劇団の共通する問題意識としてみられました。身近な問題意識からはじまり、それをまた別の視座にたってみたり、或いは離れてみたりして、創造を膨らませていただければと思います。ありがちな問題意識には、そもそも関わらないというのも手だと思います。視点の持ち方や、空間や時間の作り方、考えていることと、実際に舞台で実現していることの関係性や完成度、これらを勘案して私なりに評価をさせて頂きました。

 

  • 劇団未踏座(2)

 大きなパネルが上下にたてられている美術については、サービス精神或いは心意気ということなのでしょうが、本編との絡みが薄く、どうも邪魔なような気がしてなりません。内容が絡まないにしても、造形物や空間の設計がからんでいるだけでも、違ってくるかと思います。講評会では、批判の対象としてもあがっていましたが、電話をしているシーンが曖昧にあるくだりは、一方で面白いアイデアになる可能性も感じます。実際におこっている現象に、もう一度、厳密に見る視点をもてるとまた、判断がかわってくるだろうと思います。

 

  • 劇団ユニットコックピット (4)

 学生とはおもえない、随分、大人びた作品でした。それは、戯曲も、演出も、演技も落ち着いて運んでいました。お父さんと、それから今回、個人賞を受賞されたお母さん役の方にとりわけ、それを感じます。細かいですが、お母さん役の方の演技で、そこまで目の芝居を強調しないほうが、より奥ゆかしい感じがでるかなと思います。ビー玉を返しにくる下りは、お尻からでたものという要素が、本筋とは違う角度の要素が入ってきて、面白かったです。

 

  • poco a poco (4)

 3つのシーンの構成で新しい未来と過ぎた過去の狭間でゆらぐ女性をコミカルにコンパクトに描けていたと思います。謎の中学生や、その後の派手な友人のドライブ感あふれる台詞も魅力的で、3人の俳優はきっちりと役割を果たしていたと思います。想定したことをそのままに実現したのだろうと感じました。

 審査発表の時にもいいましたが、良くできているが故に、ある種の物足りなさも感じます。時間が短いという意味ではなく、広がりや、ミステリアスな部分、一言ではかたづけられないものといった要素はないので、主題の選び方はまだまだ吟味されてもよいかとも思います。

 

  • 劇団しろちゃん (3)

 字幕を使って人物の心の言葉をあらわす下りは、劇作上の見せ場でもあり、演出上の印象に残るポイントでもあったかと思います。この特別なシーンに特別な演出を設けるというのも良いですが、とってつけたような感じにもなりかねません。特殊な手法を、創作の基礎において、その表現が何を舞台上にもたらせていて、それが俳優や言葉とどう関係しているのかを探求するだけでも、一つの作品が作れますし、深みもでてくるだろうと思います。

 

 

  • 劇団サラブレッド (3)

 ちぐはぐなダンスから、それぞれの隠れた思いを、コミカルにぶちまけていく。言いたいことが言えない。そして何が言いたいかは、よくわからないということであるならば、ディスコミュニケーションの問題ではないかもしれませんね。わりに赤裸々に語っているのでアイデンティティの問題でしょうか。シーンとその転換点であるサスの語りで、一定のフォームの中にうまく納めていたと思います。自分がわからないという叫びは、青春の等身大の叫びかもしれませんが、そういうよくありそうなものを取り扱うならば、もう一つ視点が欲しいですね。

 

  • 劇団ACT (5)

 対象を明確に表さない指示語などの多様で、奥行きを持たせていたと思います。将来の不安という他の団体にもみられる要素を持ちつつも、複数の登場人物の視点が、広がりを持たせています。また、中国人労働者との関係性など、視野がひとつ広い点もいいですね。私たちの姿をまた外側から想像させてもらえます。狭い舞台を、街ひとつほうりこむような、空間と人の使い方がほどこされていて情報の密度も特徴でした。雰囲気のある俳優もいて魅力的です。良き仲間と出会って続けていかれるといいなと思います。

 

  • かまとと小町 (2)

 とてもハキハキして愛嬌のある俳優さんで、魅力的でした。ただ、お話と演技がテンプレート的で、舞台作品としてはやはり退屈です。

 主題の選び方、ストーリー、人物、演技プラン、演出、舞台美術などのスタッフワークなど、演劇を構成する要素ひとつひとつに、なぜ自分たちがそれを選択し、あるいは、選択しようとしているのか、自分たちをとりまく環境をも含めて、疑い、検証し、思考するということをやってみてもいいかもしれません。

 

  • 創像工房 in front of. (2)

 虚構の世界の中に、さらに虚構世界が、戯曲で設定されていて、ファンタジックな世界の住人が、その奥の虚構を表現するのに、プロレスを引用して表現し、全て嘘だ(イッツ オールライ)という構成ですが、はじめから真実味がないまたは、虚構であることは明白なので、「そりゃ、そうですよね」という感じになってしまいます。表現が現に舞台上でおこしている現象そのものに強く着目し、現におこっていることを把握して、設定との関係を考えれば良いかと思います。

 

  • プリンに醤油 (4)

 女の子3人のコントは、いい感じで力も抜けて大変笑わせていただきました。嫌み無くコントをつくるというのは、本当に難しい作業だとおもいますので、とてもうまいと思います。この先は、どういう風に考えておられるのでしょうか?作品の質や、誰に向かって作品を作るかで、進路もかわってくるかと思います。3人でよくコミュニケーションをとってください。3人はいい出会いをしているのではないかと思います。この先、まだみたこともない、面白い作品ができますようにぜひ、がんばってください。