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レビュー

審査員講評 早坂彩 氏

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・総評

全国学生演劇祭、お疲れ様でした。

こうして全国各地から上演団体が集まり、作品を発表しお互いの作品を見合える機会は、本当に貴重だと改めて感じました。

 

自分が面白いと思う演劇を貫いて、今できる最大限の、最先端の演劇を上演されていた参加者の皆さんをまずは賞賛させていただけたらと思います何を大切にして創作しているのか、どの団体も作品に十二分に表れていましたし、逆に関心の薄い範囲が見え隠れする団体もありました。

今回の演劇祭での出逢いや刺激が、新たな視点の獲得に繋がればと思います。

 

人生のなかで、本気になる瞬間は、幾つかあると思います。その本気は人生のターニングポイントに繋がるかもしれませんいずれにしても、今回の上演へ向かう過程で本気で取り組んだ時間は必ずや皆さんの糧になるはずです。

この貴重な経験をひとつの通過点として、今後の人生の糧としていただきたいですし、叶うならば、創作活動を続けてもらえたらと思います。

ぜひ、自分が面白いと思うことを信じて、追究し続けてください

 

 

・劇団しろちゃん「スティルインパクト」

引越し作業中の部屋になぜかジョッキーがやってくるという状況設定が奇抜で、エッジが効いていました。設定の大味な魅力を馬の頭いかくじらと言った作り物のインパクトが後押しし観客に楽しく受け入れもらえるように作られていたと思います

その分登場人物の描かれ方の粗が目立ったように思いました。他愛のないやり取りから滲み出る登場人物の関係性、造形の深みにもこだわってもらえると創作の幅が広がるのではないかと思います。

 

・社会の居ヌ「未χのチ。」

ミザンスの切り方、舞台の高さ・奥行きを活用した空間の使い方等、アグレッシブで躍動的でした。多くの段取りをこなしながら舞台空間を成立させていた全出演者を賞賛したいです。

一方で、どうしてこの主題を描くのか、どうしてこの演出を採用するのかといった作品の軸になる部分の検討が不十分なように感じました。足場が弱くては上演作品としても、カンパニーとしても積み上がっていきづらいと思います。粘り強く創作を続けていってもらえたらと思います。

 

・劇団あしあと「だから今、走る」

脚本作りと現場でのシーン作りが有機的に結びつき、作品の強度を上げていたのだろうと想像できました。その上で、観客に作品をどう届けるかが思考されており、納得の観客賞だったと思います。(ちなみに、私は審査員賞にも推しました。)

突如現れた旧知の友(=サム)とサムが持ってくる土管のインパクト、その愛される造形が秀逸でした。

主人公がそれらを徐々に受け止め、嬉しさや懐かしさを感じていく様が、丁寧に、滲み出るように表現され、観客にも届いていたように思います。

こうして総合力の高い作品が作り上げられたのは、座組み全体を生かし、一貫した軸を持って作品作りに取り組んだ作家、演出家の力が大きいのではないかと感じています。今後の作品作りに期待しています。

 

・劇団ちゃこーる「アイマイミー!」

モモオカモモコ役を演じた俳優の安定感はもちろんのこと、様々に変化する他の登場人物たちの、局所的に見せる人間味が魅力的でした。

受話器が舞台上方から降りてきたり、舞台奥でトイレットペーパーが舞ったり、人が円運動を繰り返したりといった舞台の高さや奥行きを感じさせる表現の仕掛けが作品を立体的に見せていました。

舞台上で怒涛の如く起きる事象のひとつひとつに遊び心が溢れていて魅力的な一方で、作品がどこか淡々と進んでいく印象があり、シーン内での変化の振れ幅が狭いようにも感じました。

 

・ベイビー、ラン「わたしたちの失敗」(審査員奨励賞)

レジャーシートを用いた空間設定、映像照射による空間の拡張が巧みでした。扇町ミュージアムキューブを広く、独特な空間に感じさせ、自分たちの表現に引き寄せていたように思いました。

特にプロデュースユニットの場合、作品ごとに目指す作品像を共有しつつ新たな表現を生み出すことは想像以上に難しいと思います。発語や動作について、追究しうる種を多く蒔きながら、追いきれていない箇所もあったように感じました。描きたい主題、それを最大化する独自の演出技法を、ぜひ継続して追究してほしいです。

 

・どろぶね「宇宙船なら沈まない」(審査員賞)

冒頭からぐっと引き込む演出、役者の魅力には脱帽でした。登場人物がその場に生きて、語っているかのように思わせる躍動感が素晴らしかったです。

作家によって生み出された登場人物を、座組み全体が愛し、ここまで魅力的に作品として立ち上げた実績を誇ってもらえたらと思います。

今後も、登場人物の葛藤が、いかに観客の感情とリンクするかを捉え、どんどん踏み込んで作品作りに挑んでいただけたらと思います。そして、これからもますます地域や日本の演劇の最先端を走り続けてほしいです。

 

・産業医科大学演劇部「宵闇アウトサイド」(文学座賞)

舞台はサークルの飲み会が開かれている飲み屋の外(アウトサイド)。疎外感を抱え、悩む登場人物三人が語り合う場の設定として、秀逸でした。

駐車場の置き石や、自転車、ベンチ等、その場ならではの美術が良かったです。

各登場人物が既に自覚している悩みを吐露するシーンが多く、少し説明的に感じました。悩みと一口に言っても、「言えるもの」「言えないもの」、「自覚しているもの」「自覚していないもの」など様々な形があるように思います。お互いが少しずつ影響し合い、本人の気づいていない自分に気づくような瞬間も垣間見たかったように思いました。

 

・劇団激男「黄ばみかけの完熟トマト、そこにちょっとのユートピア」(審査員特別賞)

表現しなくてはいられない切実さと、それを具現化したカンパニー力を評価したいです。

表現したい主題を観客にどう届けたいか、どう見てほしいかという視点も加えて検討できるようになると、作品の本質をより効果的に表現できるのではないかと思います。

この視点を持つことで、講評会であった「宣伝文が作品の本旨を伝えきれていないのではないか」という指摘や、「全裸で舞台上に上がれないとなった時に、肌色のパンツを履くのがベストな選択だったのか」といった問いにも違ったアウトプットが見つけられるのではないかと思いました。

 

・道徳ふあんしー「オートファジー・コメディアン」(審査員賞)

お笑いを扱った作品でありながら、演劇としての面白さが際立った作品でした。

物語の展開と共に、登場人物の微妙な感情の揺れ動きが表現されており、演出的にも演劇的な面白みが散りばめられていました。シンプルな美術と、衣装もとても良かったです。

「オートファジー・コメディアン」、結果的に作家の描きたいテーマを貫き表現することで、観客に多様な捉え方を許す作品になっていたと思います。

今後も、作品が観客の創造力の手にかかった時に生まれる新たな可能性や余白を楽しんで創作を続けてもらえればと思います。