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企画

審査員講評 伊藤達哉 氏

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総評

 

当初期待していたとおり「いま」を生きる学生たちの瑞々しい感性に出会うことができた。現代演劇が大きく変化をしているまっただなかにおいて、その萌芽を確かめることができた。私が演劇作品を評価するうえで大切にしていることが質と好みを分けて作品を観るということ。クオリティの高低と、テイストの好き嫌いは別軸の評価であるということ。クオリティは圧倒的に高いのにどうしても好きになれない作品もあれば、クオリティとしてはどうにもならないが好きになってしまう作品がある。それが演劇の素晴らしさであり多様性に価値を見出すことを大切にする姿勢に繋がると思う。

今回の審査会では「劇団ひとみしり」と「睡眠時間」の2作品が審査員全員により圧倒的な支持を集め、またどちらをより強く推すかで真っ二つに分かれた。余りにも斬新な切り口とスタイルで「いま」を表現した「リカちゃん」と伝統的な素材を憎いくらいの老練さとクオリティで圧倒した「◎」。これだけ対称的な作品を生み出した土壌を培ってきたことが全国学生演劇祭の意義なのだろう。

 

 

はりねずみのパジャマ

「楽しみましょう」

 

幕開きの張り詰めた緊張感のなか、サッカーボールが舞台上手から下手へと転がってくる。これからの出来事を暗示させるような不穏なオープニングが印象に残る。この後の展開に期待したが、登場人物たちの間で交わされ始めた会話からラストまで掴みどころのないまま終わってしまった。決して退屈したわけではなく、シーンが展開していくテンポや個々の俳優のスキルは悪くないのだが作品全体としてみると脚本の狙いがよくわからない。かつ、舞台上の空間の使いかも大雑把で、よく言えば自由奔放なイメージが広がる作品だが、脚本と演出が噛み合っていない。前半と後半で作品のトーンが急激に変わるが、それにあわせて俳優の芝居の質も変えられるくらいのスキルがあるのであれば、より高い表現を実現させる作品全体をトータルでみせる演出の創造性を期待したい。

 

 

南山大学演劇部「HI-SECO」企画

「蝉時雨、ある少女の夏」

 

冒頭から丁寧な演出ですぐに作品に入っていけた。個々の俳優の表現力や照明などのスタッフワークはクオリティが高く、転換にも工夫がみられる。特に夏美が客席に完全に背を向けて台詞を発し続けるシーンは印象的だった。惜しむらくは脚本の構造をもう少し練って欲しかった。晴太をずっと見続けてきた夏美の話というには物語構造を演劇的に成立させるには物足りない。講評会で審査員の先生から「夏美を蝉にしては」という大胆なアイディアを提案されていたが、または夏美こそが精神に異常をきたしているようにも感じる。夏美と晴太の関係の虚構性を強めることで作品全体の芯を太くするか、あるいは晴太の背景のリアリティを追求し作品全体の切迫感を上げるとか。もう一歩二歩、脚本としての踏み込みを期待したい。

 

 

fwtp(フワトピ)

「Dreamy Null Another」

 

消化不良な作品になってしまった。作品として総体的にクオリティが低いわけではない。ただ、脚本、演出、俳優という要素で分けて考えると脚本の力が圧倒的に弱い。まず近未来設定でSFを題材にパンフレットの「あらすじ」に描かれている内容を描こうとするのであればこの分量は少なすぎる。脚本は読まずに観たのだが、審査会の前に戯曲を読み、また講評を書くにあたり読み直したが描かれているテキストにどうしても興味を惹かれない。迷いに迷ってこの形になったのか、それとも私では計り知れない意図が隠されているのか。いずれにせよ、舞台上において俳優は演出の意志を覆して動くことは難しく、演出は脚本の枠を超越するにも限界がある。だからこそ、脚本を読み返せば返すほどカンパニーとして挑戦しようとした意志の強さを感じる。逆説的に、3人の俳優たち健闘を称えたい。まだまだこの先も演劇活動を続けていくのであれば、ぜひ既成の台本に挑戦してみてはどうだろうか。

 

 

劇団ひとみしり

「リカちゃん」

 

これはヤバいものを観てしまった。現代を生きる学生のコミュニケーションのあり方が、これまで観たことのない形で見事に舞台上にて表現されている。常に人形を持って会話をする、そのときの俳優たちの身体性、これが絶妙によかった。交わしている会話はどうでもいいようなことばかりだが、繰り返されることで日常性をリアルに活写している。脚本、演出が一体となった強固な世界観のもとで、俳優たちが迷いなく舞台上に存在しており、稽古にしっかりと時間をかけているのが垣間見られる。テイストが強烈でクオリティの高い作品。もしこの手法を方法論として確立できたとしたら、現代演劇が問い続けている台詞と身体との関係性のあり方に決して小さくない一石を投じ得る、そんな可能性すら感じた。

 

 

睡眠時間

「◎」

 

オーソドックスな脚本と手堅い演出、そして厚みのある俳優陣。普通に惹き込まれて最後まで見続けてしまった。セミプロのような完成度のある作品だと思った。とにかく脚本がよく出来ている。登場人物の描かれ方が豊かで会話を聞き続けているうちに、ときに印象的な台詞が入ってきて心が打たれる。京都という土着性と地に足のついた5人の登場人物たちがしっかりと舞台上で生きている、ように見える。特に存在感が際立った東人役の俳優にはまったくの独断でベストアクター賞を捧げたい。観劇後に読み返した脚本でト書きの上手さにも舌を撒いた。劇作家としての将来にも大いに期待したい。

 

 

デンコラ

「幻によろしく」

 

宇宙人の設定で恋愛をテーマにコメディで勝負するには演出力が余りにも不足している。設定が不安定な世界のなかでドタバタコメディを見せられているよう。ただ決して個々の俳優が劣っていたわけではない。ビニ男役、パピコ役の両名はしっかりと物語を牽引していたし、安達役は登場人物たちのバランスをとる存在として不思議な魅力を感じた。審査会では厳しい言及の的となってしまったジェンダーの扱い方も含め、ぜひいまいちど来年以降の奮起に期待したい。

 

 

でいどり。

「ありふれた白にいたるまでの青」

 

テーマに真剣に向き合ったドストレートな脚本と、工夫と挑戦に満ちた演出と、バランスのとれた3人の俳優たちによるクオリティの高い作品。描きたいことをはっきりと伝えたいという作家のその切実さに圧倒され、それを丁寧に客席に届けようと舞台美術、衣装も含め試行錯誤する演出の真摯さに感動した。学生の年代でしか描けない、今だからこその作品として、全国学生演劇祭に相応しい未来に拓かれた一作ではないだろうか。

 

 

遊楽頂

「ヒトリ善がり。」

 

単純に軽妙に楽しめる作品だった。かといって決してクオリティが低いわけではなく、強靭な身体を駆使した運動量と熱量で台詞がビシビシと客席に伝わってくる。途中にインサートされる映像に妙な中毒性があり、随所に繰り返されることで陶酔感が生じてくる。落ちまで含めた脚本も構成としてはうまく出来ていて、脚本、演出、俳優と3要素のバランスがいい作品だった。このテイストでより高みを目指すのであれば、コメディタッチのなかにも個々の登場人物の問題意識を高めるか、哲学的な深みを足すような試みが必要になるのではなかろうか。