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レビュー

ポケット企画へ参加団体からの感想・講評

暗い舞台。そこに、美しいピアノの音色が鳴り出す。ピアノの音色と共にゆっくりと明かりがフェードインし、舞台が照らし出される……。このピアノ、なんとスピーカーからの音ではなく、人間の手による演奏である。会話の合間合間に入るピアノの音色は、非常に耳に心地よいので必聴。

登場人物は、卒業制作に挑んでいる真っ最中である美大生の女子二人。二人は、「へそ」の話に始めとして様々な会話を続ける。会話を続けながら、ゆっくりと二人は歩み寄ってゆき、作品を作り上げてゆく。じわじわと、とろ火にかけたように心の距離を詰めていく二人は、見ていて凄くもどかしい。しかし観客は、気付けばそのもどかしさに惹きこまれている。

■東北連合 スタッフ

 

音響はピアノで統一したのかぁと呑気に思っていたら、まさかの生演奏でびっくりしました。ピアノの1音だけでその場の雰囲気を更に感じることが出来て、ピアノの可能性を体感しました。 最初は作品を生む前の停滞した状態が続いていて、今これがどういう場なのか分かるまで少し 長く感じましたが、中盤からは軽快なピアノの音とともに1歩1歩物語が進んで、気がついたら39 分経っていました。 

何かを“生む”ということ、それがヒトであれモノであれ、そこに至るまでの問答はとても共感するところが多かったです。といっても、自分はヒトを生み出したことは無いので、もしかしたら別の考えが現れるのかもしれません。また、問答と同時にペンキで足跡を残していく演出は、目の前で新しい作品がまさに今生み出されているのだという高揚感を掻き立ててくれました。田中が妊娠していると分かった時、彼女はどんな気持ちでへその緒の話を聞いていたのかと、もう一度見たくなりました。 

2人の足跡を見た時、今後進んで行く道が前向きなものになるのだなと、心が晴れていくような気 がしてすっきりする作品でした。

■ごじゃりまる。 宣伝美術担当

 

人生の岐路を迎える2人。今までの選択より遥かに様々な選択をしなければいけないのは自由ですが迷いますよね…。悩みながら考え選ぶ姿が学生には特に響きました。役者さん2人とも明瞭な声で非常に聞き取りやすかったです。所々鳴り響く短い音楽は生演奏なんですね!?すごく劇に沿っててアクセントになったり感情の変化に寄り添っていたり感じました。足跡をつける行為はここに今いる自分を残したいってことなのか赤ちゃんという新たな命を授かって流転というか繋がっていくことなのかなぁと思いました。私には少し会話がもったりと感じたのでもっと間を詰めてもいいかなって思います。

■劇団Noble 俳優

 

大学生としての時間、特に卒業する直前は時の流れがとても早く慌ただしく過ぎていくものですが、この作品ではスピードの遅い会話や生演奏による静かな音楽によって、卒業間近の二人に流れる時間がゆったりと過ぎていく様子が描かれていました。疾風怒濤の時代といえども大学生は一秒一秒を大切に生きているんだなということが強く伝わってきました。 

足跡を振り返ることで自らが歩んできた道のりを確認する姿はとても美しく、一歩一歩を大切に踏みしめていく二人のこれからを応援したくなる素敵な作品でした。

■ゆとりユーティリティ

 

セリフ、ピアノ、生活音。すべてが心地のいい間で繰り広げられていてずっと浸っていたい感覚になりました。

■あたらよ 関係者

生後間もない子にお腹の中のことを訊くと心地よかったと聞いたことがあります。

小劇場という閉鎖された空間、うっすらとした照明、『枠』の外から聞こえる声、そしてピアノの音色。

今回、一番小劇場に特化している劇団だったと思います。

■あたらよ 関係者

 

語り口がとても巧みだと思いました。劇作家の声が聞こえる作品なのに、モノローグに陥らず、吉田と田中の持つ想いの切実さが、色彩や手触り豊かに描かれた妥協のない会話劇だと感じました。特に前半20分のへその緒をモチーフに自分と他人の境界線の曖昧さを描いたシーンの、観客を引き込む力が凄まじく、何度も繰り返し観ました。テーマの選択も個人的にとても好みでしたが、それをいかに描き切るかということの重要性について、改めて気付かされる作品でした。

■ふしこ 役者

 

「時間がない」と言いながらもゆっくりとしたペースで進んでいくお話にもどかしさを感じながらも、どこか癖になる空気感でした。一貫して曖昧さを描いていて劇中にはっきりとわかることは少ないからこそ、こちらが勝手に想像して楽しむことができるお話だと思いました。曖昧なものを形にしようとする彼女たちの後ろで流れている目で見ることのできない音楽はBGMやSEとしてだけではなく、なにかを表わそうとしているのかなと思いました。

■おちゃめインパクト 引率 堤田