JSTF

レビュー

観劇レビュー セクシーなかむら

yamaguchi

山口県・福岡県 セクシーなかむらさん(団体なかむら)

 

ポケット企画のレビュー

 

綺麗で、静かで、優しい作品でした。どういう空間なのだろう、なぜ時間が無いのだろう、謎が膨らんで、回収されて……脳内で心地よい作業をしながら観ることができました。静かな空間、僕は怖くなっちゃうのですが、その静かな空間に確かに存在することができている役者の身体が魅力的でした。丁寧に、ていねいに創られた作品なのでしょうね。見ている最中、創るって何だろう、作品って何だろう、伝えたいことがなければいけないのか、伝えなきゃいけないのか、分からないものは駄目なのか、いろいろなことが頭の中でぐるぐるしていました。楽しかった~。あとピアノ! 大好きです!! 役者の発する一言、一言に合わせてポーンと鳴るピアノ、僕の感情が揺れる瞬間にピアノが差し込まれると、もう、ダメ押しのように揺さぶられる。好きでした。

この舞台の象徴となる大きな黒い紙に足跡で描かれる存在の証。足跡で作品を創る、中央にいないのに中央にいる、「ここにいる」ということを静かに、そして力強く感じることができました。終盤の「これ、すごくない?」というセリフに、「ここにいるんだ、ここにいていいんだ」という気持ちを抱き、勝手ながら自分が救われたような気がしました。登場人物二人のこれからを、ここにいた、うえでどうなるのだろうか、ずっと見ていたい二人でした。

作品のレビュー、とは離れるのかもしれませんが、この脚本を書いた人は、この演出を思いついた人は、この役者は、演奏者は、作品は、この作品を創る中で何を考えたのだろうか、この作品を上演した後、何を考えるのだろうかと思考が広がりました。この作品を通して、自分の観たいもの、自分の作りたいものについて考えられたような気がします。ありがとうございました。

 

許されるなら、もっと狭い空間で、自分たちに届かない声で発されるこの作品を至近距離で観察したい。