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レビュー

ポケット企画の観劇レビュー

札幌・ポケット企画

三重県・愛知県 ヘロタジョさん(しまい倶楽部)より

mie

 視覚的にも聴覚的にも魅了させられる作品。〈生〉特有のパワーを無理に押し出さず映像作品としても成立させられる完成度の高さと同時に、その場でのみ生み出される〈生〉のパワーをピアノの伴奏で上手く引き上げていたところが好印象。視覚的には画材や小道具を単純な美術に加えて心理表現などを、聴覚的にはピアノの生演奏で役者や状況と無理なくリンクさせていた。ただ世界観に丁寧になっているが故に壊すことに抵抗を抱いているように感じた。今一つ物足りなく、もう一工夫することも出来たような気もする。雰囲気としてこの団体独自の空気が完全に形成されていてブレが無く、何より美しい。世界観が安定はしているが法則に則ったものというものが感じられ、段取り感が度々見える。画材の配置や話題の出し方などでその「行為」が前提にあるような演劇的な意味での準備の良さが見えてしまったように思える(黒紙は何故最初から敷いてあるのか、臍の話題 など)。
 ここから個人的な雑感で、作中で印象に残ったのが足跡の作品。黒紙に自らの足跡をペンキで残していき、その真ん中にのみ空白を残し自分たちがいたということをアピールする。タイトルにもある『ここにいて、』を文字通り象徴するが、我々はその過程を見ているからこそその作品の真意をある程度理解できる。しかし作品という結果だけを見て「なんじゃこりゃ!」と一蹴する者やチラリと見るだけの者が全てなのだろう。それにも関わらず過程としての足跡を残すことが重要であるというスタンスのこの作品はカクカクシカジカやソンナコンナを言い表せない我々への応援歌なのではないかと思えた。見る側に対しても産んだものとして存在意義を訴えていた。作る側も見る側も自分に向き合うだけで精いっぱいのこんな時代だからこその優しい題材だった。

 

新潟県 石川直幸さん(劇団@nDANTE)より

niigata

まずは、コロナ過での上演を敢行した全ての団体と実行委員の方々に、最大限の敬意を払いたい。また、コロナという危機に際し、迂闊にも(笑)全国の演劇人とつながってしまった私のような片田舎の人間に、観劇の機会を与えてくれたことに感謝申し上げます。以下レビューです。

序盤、私はこの作品の面白がり方に苦慮した。しきりに時間がないことをほのめかす女学生と、へその緒に妄執する女学生。段々と二人の置かれた状況はわかっては来るのだが、いつの間にか二人の会話は詩的なモノローグ地味た言葉の浮かべ合いへと変容し、時間がない事への拘泥や、へその緒の話は途中でどっかにいってしまう。いわゆるドラマの核となるこの二人の目的(そして揺らされるべき価値観)が掴めぬままで、作品のどこに心を預けて観劇すればいいのかわからなかった。

もしも残り20分もこの調子であったなら、「うだうだインドアでポエミーなこと考えてないで一回太陽に向かって全力疾走してこい!以上!」で感想を終えるのだが、中盤以降の演出により思わず「おッ」と声が出た。(声を出しても迷惑がかからないのが配信公演のいいところかもしれない。)悩みながら歩み続ける自分の足跡から、自己の存在を再認識するこの手法は、文字どおりの『鮮やかな』青春の表現描写であり、恐らく単音/和音/音階にまで意図があるだろう生演奏と相俟って美しい。これは一種の発明である。演劇において発明することはそれだけで偉業である。またこれによって、前半の浮遊感が、彼女らの迷い・戸惑いによるもの、という意味を帯びて、作品全体が少しソリッドになったように感じられる。
ブルーシートはブルーシートで [……全文はこちら

 

 

山口県・福岡県 セクシーなかむらさん(団体なかむら)より

yamaguchi

綺麗で、静かで、優しい作品でした。どういう空間なのだろう、なぜ時間が無いのだろう、謎が膨らんで、回収されて……脳内で心地よい作業をしながら観ることができました。静かな空間、僕は怖くなっちゃうのですが、その静かな空間に確かに存在することができている役者の身体が魅力的でした。丁寧に、ていねいに創られた作品なのでしょうね。見ている最中、創るって何だろう、作品って何だろう、伝えたいことがなければいけないのか、伝えなきゃいけないのか、分からないものは駄目なのか、いろいろなことが頭の中でぐるぐるしていました。楽しかった~。あとピアノ! 大好きです!! 役者の発する一言、一言に合わせてポーンと鳴るピアノ、僕の感情が揺れる瞬間にピアノが差し込まれると、もう、ダメ押しのように揺さぶられる。好きでした。

この舞台の象徴となる大きな黒い紙に足跡で描かれる存在の証。足跡で作品を創る、中央にいないのに中央にいる、「ここにいる」ということを静かに、そして力強く感じることができました。終盤の「これ、すごくない?」というセリフに、「ここにいるんだ、ここにいていいんだ」という気持ちを抱き、勝手ながら自分が救われたような気がしました。登場人物二人のこれからを、ここにいた、うえでどうなるのだろうか、ずっと見ていたい二人でした。

作品のレビュー、とは離れるのかもしれませんが、この脚本を書いた人は、この演出を思いついた人は、この役者は、演奏者は、作品は、この作品を創る中で何を考えたのだろうか、この作品を上演した後、何を考えるのだろうかと思考が広がりました。この作品を通して、自分の観たいもの、自分の作りたいものについて考えられたような気がします。ありがとうございました。

 

許されるなら、もっと狭い空間で、自分たちに届かない声で発されるこの作品を至近距離で観察したい。