JSTF

レビュー

観劇レポート 村木みたかさん

JSTF2017イメージ3-01

第2回全国学生演劇祭の演目を観劇し、舞台の模様を広く伝える”劇評/レビュー”を書いていただく方を募集し6名の方に担当していただきました。

 

村木みたかさん

東京で小劇場の制作業務とかやってます。
高校生の頃から小劇場界にハマり、大学生の頃には生意気にもプロのスタッフを名乗って、それ以来、未だにこの世界から20年以上卒業が出来ていないどうしようもない人です(笑)
全国から色々な才能を持った人たちが集まるこの学生演劇祭は、普段、東京スタイルに毒されている私にとっては、新鮮だったり、目から鱗だったりという事も多く、とても楽しみに見れるだけでなく、大変勉強になることも多く、全編見せていただいた甲斐がありました。

10作品全部見るとお尻が痛くてしょうがない椅子は来年は改善の課題ですね(笑)

観劇日2月25日(土)

 


午前Cブロック

  • 劇団マシカク 自憂空間

狭いシェアルームで繰り広げられる、全米が震撼して泣くような広大なスケールなんだけど、たった3人だけのお話。
名前より、着ているちょっと不思議な衣装の色で、呼んでる名前より、真面目な青君、熱血な緑くん、心は乙女?な黄色くんと呼ぶほうがしっくりくる、見るからに分かり易いキャラクターさん達がそれなりに広い舞台を、とても狭そうにうまく演じています。

冒頭、いきなり不条理系の不思議な芝居が始まるのか!と思いきや、彼らが日常繰り広げている迫真に迫る「ゴッコ」ゲームから始まる、なんでもアリの空間で、就活の悩みを抱えつつ、この先の漠然とした不安と、各自それぞれ複雑な恋心を抱え込んだ3人の感情が大爆発状態で繰り広げられるあっという間の45分です。

その昔確立された、アニメや漫画の世界を借りてきて、すごい勢いでバンバン、シチュエーションコントにしてしまう技法も、個人的にはそろそろ飽きてはいるのですが、安定のクオリティーは出せてはいるので、まあ安心して楽しめました。音楽や効果音のキッカケが絶妙で巧く、素敵を越してカッコイイ!レベルに仕上がってますね。

ここまで話が暴走したら、もう収集がつかないレベルになってしまうところですが、そこは安心して納得できる安定のオチもしっかりあって、演劇というより、長編コント芝居としても楽しめますね。就活を抱えた、共同生活を送る男子のフクザツなキモチを体験するのはちょっと面白いです。

今回、デビューしていきなり解散との事ですが、一発屋的なこういうスタイルやり逃げではなく、毎回安定のクオリティーでこの世界観を深めて行けたら素敵なのになあとも感じました。
今回のこれだと、勢いと感覚で仕上げたのか、実力として作り上げてきたのかが、ちょっとわかりにくいところはあります。

 

  • 岡山大学演劇部 山田次郎物語

尖っていて実験的で挑戦的な作品が多い中で、ある意味正統派な作風の作品という印象の、山田次郎を軸に、周りを取り巻く世界が繋がっているという、心がホッコリするお話。

良くも悪くも高校演劇路線の延長のようなスタイルで通しているので、商業演劇や東京の小劇場みたいなのが好きな人からすると、ちょっと系統が違うので評価が分かれるかもしれません。

11人の登場人物が、セットとして振舞ったりして、全くセットを使わないマイムパフォーマンスで全編を演じるのはなかなか見所がありますが、キレとかストップモーションの美しさを追求するほどの練習時間はなかなか取れなかったのかもしれません。

壮大なテーマはなかなか見所があり、あえて繰り返される営みで出てくるセリフとか結構重みがあって良い感じですが、全体的に動きのキレとか転換とかがもっとメリハリ効いていたら、とてつもない長さの時間に流されていく山田次郎の人生がもっと深みのあるものとして出せたんじゃないかなあ。とか感じました。

壮大な時間の流れと人生の重さをしっかり出して行けるかが結構重要なポイントになりますが、全員同じ20代前半の出演者さんだけで、子供から老人までの広い幅を演じるのは実は結構大変なことなので、そういう事を考えると学生演劇って、年齢の幅を欲張って大きく取らない作品の方がまとめやすく、評価も得られやすい傾向が出てきてしまうと思うのですが、そこをあえて挑戦したところには心意気を感じます。

音楽も思い入れたっぷりに選曲したのだと思いますが、音響操作が雑だったり技量が低いと台無しになってしまう例のようになってしまっていたのが、ちょっと残念でした。
出演者全員が本当に楽しそうに演じていたのは印象的で、学生を卒業してもライフワークとしてずっと演劇を続けて欲しいと思います。

 

  • 幻灯劇場 DADA

おおお、久々に見たアングラ系!近頃こういうのはすっかり減ってしまっていますが、今の時代にマッチするようにアチコチがモダンになっていて、こういうの初心者でも拒絶反応を起こさず、楽しく見ることができる構成力がステキです。

本番が始まる前のセッティング中から、何やら怪しさ全開のオブジェや、要塞のように組み上げられる、生演奏エレキギターのエリアなど期待が高まってしまいます。そしてこのギターのみの生演奏による音楽と効果音がすごくイケてます。プレイヤー(音楽担当演者というのかしら?)の、演奏しながら陶酔しきった顔とか、演技かもしれませんがもうお約束って感じでとっても痺れます。

内容はもう、さっぱり訳解らない系に分類されるように思いますが、キーワードとしてのオブジェや名前などがうまく気になるように散りばめられていて、一晩寝て思い起こしてみたら、支離滅裂で訳わからない話ではありますが、見てる最中は勢いと雰囲気でなんか解らないまま納得させられてしまうパワーを秘めています。

キーワードになるコインロッカーの作りと使い方がなかなか面白く、見ていることらとしてはこの華奢な木造オブジェは3日間無事に壊れず持ちこたえられるのかしら?というところが心配でしたが、下手な美術セットを構築したり散りばめるより効果的に感じました。

45分という、一本まとめるにはなかなか大変な短い尺の中で、破綻したり尻切れトンボにならずに、それなりに見せてくれる構成力や演技力は素晴らしかったです。
なんか目の下にクマのメイクした変な人たちが踊ったり襲ってきたりするけど、そういうの一々意味とか考えないで、そういうものだと思って浸りきって見ると、嘗ての寺山的な世界の気分をちょっとだけ味わえるかもしれませんね。
好き嫌いが分かれる作品だと思いますが、私はこういうの好きです。


午後Bブロック

  • 劇団なかゆび 45分間

意欲作と言えば意欲作。単体で上演するのは、お金を頂いてという上演形式だったら、まずダメでしょこれは。というところにあえて挑んできているので、このようなコンクール形式なら受賞に一番近いポジションを狙えるような作品には感じました。

ただ、審査員から何らかの賞はいただくだろうけど、観客からはだいぶ低い評価しか得られないだろうなというのも瞬時にわかってしまうような出来でもあります。
観客が不快感を示して低評価というのは、それこそ彼らの思うツボですが、そこまで到達せず、ただ残念な演目にしか見えないという危険のほうが多い演技でした。

学生演劇ということで、商業ではなくすごく尖った所を追求している心意気は立派ですが、その割にはセリフや振る舞いが雑すぎて、観客が確実に腹を立てるところまでしっかりコントロール出来ているとはとても思えない演技に、腹が立つのではなく、ちょっと残念な気持ちになります。

だいぶあざとい、わざとらしい構成で始まって、ああこういうのが来たかと思ってしまいましたが、不快感の中に湧く微妙な期待感を感じさせる演技とは程遠く、一本調子のスイッチがオンかオフしかないような底の浅い演技の方が気になってしまってしょうがありません。
そして観客を敵対視している彼に全く優位性が感じられないのです。なので、この作品に興味を示すというのは、見たことない生物が吠えているのを鑑賞するような感覚を覚える人もいるでしょう。

演出の小道具として、座席に座布団を配置して、観客みんなが舞台に座布団を投げ込むぐらいの気持ちにさせてくれたら彼らの勝ちを認めても良いですが、そこまで高揚する気持ちより残念感のほうが大きかったのが正直な気持ちです。
ただし、こういうスタイルをやるという事自体が学生演劇の実験的要素としてはポイントが高いので、こういう作風で作って受賞するのは確信犯的だったのかもしれません。

 

  • 一寸先はパルプンテ 境界

近頃、差別用語や放送禁止用語が自主規制でどんどん増えていっていますが、そういうタブーとは全然関係なく自由奔放にあえて挑発気味にそういう言葉を使って、それなりにエグいところに切り込んで来る姿勢は学生演劇ならではのエッヂが立った感じでなかなか素敵です。

開演前のセッティングでカラフルな養生テープが張り巡らされて、どんな事が起こるのだろうと期待していたら、そんなに深い意味はなく、セットの代わりの色の模様だったというのはちょっと拍子抜け感はありますが、ベタではなく、タイトでキツいスポットを主体とした狭いエリアの照明で、それなりの広さの空間を引き締まった感じでうまく使えていると思いました。

このどこでもない場所、どこでもない時間のような空間は結構昔に流行った感じではありますが、イマドキだと装置やセットを多用するのが流行りになってきているなので、このシンプルさは逆に新鮮に感じました。

そして、共感が得られるかどうかより、しっかりした主張がベクトルがブレることなくストレートに繰り出されてくるパワーに、普段は賛同できない考えでもこれを観劇中は、そういう考えもアリかもという気にさせてくれるだけのパワーはあったと思います。
なので、オムニバスで語られるエピソードは結構エグい物もたくさんありますけど、拒絶反応を起こすようなこともなく、目をそらさずにはいられないという事もなく、それなりにジワジワと入ってきた印象です。

個人的には、一見なんの繋がりもないエピソードのオムニバスをビジュアルイメージで思わせぶりで見せておいて、それが終盤にはどんどん繋がって来て、でも一番最後は色々考える余地を残すと言うような手法は、その昔話題になった、第三舞台を思い出して観ていました。

 

  • シラカン 永遠とわとは

不思議ちゃん達3人が繰り広げる、彼らにとっては不思議でも何でもない日常。

この現実離れした感覚が客席にもだいぶ好印象だったようで、確かに安心して楽しんで見れる作品だったと思います。

昔から個人的に多摩美の人達とは色々お付き合いがあったのですが、演劇をやっていない普通の学生さん達でも、学内にこの芝居の中に登場するようなキャラクターのような人達がウジャウジャ居て、この作品の中に出てくる思い込みが激しい男女3人が繰り広げるている光景のようなのは普通にあったりしていた気がするので、そういう意味ではぶっ飛んだキャラクターをこの芝居の為に創造したのではなくて、彼らは結構自然体で演じているのではないかと思うんです。

なので、細かく分析的に見ていくと、色々辻褄が合わないことが多かったり、コウノトリの意味とか考えても考えるだけ無駄かもしれなかったり、いやだって、普通そう思うでしょ?って言われちゃったら何も言い返せないような、そういうぶっ飛んだ思考で出来上がっているように感じますし、無理をしていない自然体なので、流れに無理がないのかなと。
良くも悪くもこれが多摩美テイストで、他の多摩美の劇団さんもこういうベクトルのところは少なくない印象です。

劇中印象に残ったのが、地味に衣装を早替えして違う服装になって登場する所。それで時間の経過とか時期の前後を表そうとしてるのでしょうけど、その割に地味で効果があまり無いような。衣装なんて一切変えなくても演技力で押し切っちゃえばいいという考えもありますが、彼らは細かく衣装をかえて変化をつけるというこだわりを取ったのでしょう。
また、テーブルの作者が、彼らとは付き合い切れないと電話を切ってしまうとか、そういうシーンをあえて入れてるということは、彼らにも不思議ちゃんの自覚症状は多少あり、ちょっとそれを自虐的に出している感じに取れたのも面白かったです。

最後に大量のオブジェが出てくるのも圧巻ですが、なんでこんなに大量にぶちまける必要があるの?って聞いたら、きっとその方が絵になるから。という答えが返ってくるんじゃないかと思います。理屈じゃなくて、感覚で感じる芝居でしょう。感じられない人には評価が低くなると思いますが、観客として足を運んでいた演劇に興味がある人だと、受け入れられる率が高いのでしょう。


夜Aブロック

  • 劇団宴夢 大四国帝国

四国をリスペクトしてるのか、バカにして楽しんでいるのか、どこまで本気なのか?いや、全て本気なのか?

擬人化された4つの県が、大統領と名乗る男にそそのかされて、独立を図るが、アメリカから攻め入れられちゃって、あっという間にボロボロに負けちゃうんだけど、まあそれも悪くないか。
って、筋を書くとこんな風に身も蓋もなくなってしまいますが、実際馬鹿馬鹿しさ全開で、30分という短い尺をコントのように楽しむことができます。

擬人化されたキャラが皆濃くて独特で、実際に色が濃い人物も居ますが、それぞれの県の特徴をよく出しています。日本全国から見ると影が薄い四国の4つしかない県の中で、さらに影が薄い徳島県は、うどんで有名な香川県とうまくバランスが取れていたようにも見え、これが例えば九州で6人とか出てきたら、皆押しが強くて話がまとまらないでしょうけど、四国は4人の力関係やバランスが絶妙にいい感じです。

これも、一体何者なのかよく分からない大統領というアジテーターが居るおかげなのかもしれません。私のカンではこの大統領は四国の人間ではなくて、アメリカCIAの工作員かなんじゃないかという気もしますが、皆大統領の言うことはよく聞き、ちゃんと付いてきますので、彼が4人を特定の方向に流れるように仕向けているようにしか見えませんが、その流され感からして、日本のどこでもない四国っぽさが醸し出されているようにも感じます。

そして、全編を覆うやたらチープな雰囲気がいい味を出しています。大統領の演台は愛媛みかんのみかん箱。ずっと無表情で果てしなく忙しく小芝居を演じ続ける秘書は、これでもかと安っぽいみんなが抱いているステレオタイプなイメージをひたすらビジュアル化するために、変な格好や道具を纏ってこれでもかと脇でアクションをしています。これだけ見ていても面白いぐらい。
全編が嘗てどこかで見たようなシーンだったり雰囲気だったりするのも、完全に狙ってやっているので嫌味がありません。むしろそれが見たかった!と拍手したくなります。そしてお約束の安定のラストのオチ。ここまでズレた金髪のカツラが似合う人達はそうはいないでしょう。

そして驚きなのが、この芝居、北海道の劇団が京都で四国の話をやってるのです。カナダ人がイタリアでベトナムの話をしてるぐらいメチャクチャです。でも北海道からだからこそ見える、客観視された四国というのも確かにあるのでしょう。それが日本全国レベルで誰が見ても楽しめる作品に仕上がっている秘訣なのかもしれません。

疲れて深夜家に帰ってきてテレビつけたら、たまたまやってたんだけど、つい最後まで見入ってしまって、見終わった後で、ああこんなに面白いなら録画しておけばよかった。的な作品です。

 

  • 劇団西一風 ピントフ

開演前の準備で、何やら物物しいセットがどんどん組まれて行って、一体何が始まるんだろうという期待が高まる中、物語は拍子抜けするぐらいに淡々とどうでもよさそうな、でもちょっと非日常的な作業場の風景を語り出します。

説明や意味が分かるような描写は一切なし。次に何が起こるかも全く読めない展開ですが、期待を裏切ってというか、期待通りというか、ホントになにも起きずに淡々と話は進んで行きます。進んで行くというのも適切ではない感じで、終盤になるまでどこが終わりなのかもわからない。

この手の話は、この訳の分からない世界を構築できたら勝ちというか、そのために実はセリフなどのディティールなどに細心の注意を払って構築されていたりするので、噛んでいるうちに味がジワジワ出てくるスルメのような味わいがありますが、ドラマ性や劇的な話が好きな人にとっては拷問に感じる人もいるかもしれません。

今回のこの話は尺が30分というのを活かした確信犯的な作りでよく考えられていると思いますが、このままこれが1時間以上続くような状態だと、ちょっと難しかったんじゃないかなという気もしました。また、装置や小道具やギミックが魅力的ではありますが、マテリアルに頼りすぎた感も多少感じてしまいました。

キャラについては語るのではなく感じるのが重要で、観客の方で勝手に構築したこの登場人物たちの人間関係が思った通りに進んだり、フェイントをかけられたりするのを楽しむ的なところもあるでしょう。なので見る人次第で評価にだいぶ幅が出そうな気もします。

現在この雰囲気のスタイルを確立しているプロの劇団も幾つかありますが、表面だけを真似して不思議な世界観で勝負しようとしても、演劇ではなくパフォーマンスを楽しみに見に来る、意識高い系の人達からだけしか評価が得られないと言う厳しい現実もあったりします。そこを自由に色々実験的に取り組める学生演劇では、より刺激的な作品を生み出したりできる可能性も大きく秘めていると思います。
今後このスタイルを貫き通して、2時間の長編でも、ひたすら淡々とジワジワ来る作品を作れるようになってもらいたいと強く思いました。

 

  • 南山大学演劇部「HI-SECO」企画 絶頂終劇で完全犯罪

学生演劇ならではというか、普段なかなか触れられないタブーなテーマに挑んだ意欲作。

ただ、学生演劇だとなぜかこの手のテーマが多い気もして、周期的な流行とかスタイルがあるのかなあ?とも思ってしまった次第。

テーマについては理解できるんだけど、その流れるテーマのクライマックスとしてこういう構成として持って来たのか、30分だからこういう仕上がりになってしまったのか、前半とその後での繋がりがあまり良いとは言えず、華々しく巻頭カラーを飾った漫画がいっぱいテーマ用意していたのに、そこに到達する前に読者から理解不能を突きつけられて、慌てて連載打ち切りになるような尻切れトンボ感を感じてしまいました。

とは言え、多分法廷に立たされているのであろう主人公の独白はなかなか雰囲気があり、セリフで聞いた以上の虐待を受けていた感がしっかり伝わってきて、観客もそれならそういう行為に及んだのも無理はない。私は理解するよ。という気分になるぐらいの気迫やパワーがあったと思います。

全編に渡ってのシャープで暗くてどこでもない感が漂う照明も、雰囲気とか世界観を構築する助けに大いに役に立っていると感じました。白と黒の衣装の対比もいい感じ。

30分という小作品を欲張ってしまって消化不良になってしまうなら、あまり複雑だったり気負った設定は潔く捨てて、その場の勢いで観客には納得させてしまった方が演劇だったら、そっちのほうがお得な感じがします。そしたら、スピード感とキレがあって勢いがある20分ぐらいだけど密度感バッチリな話になったかも。とか思ってしまいました。

 

  • 劇団カマセナイ ナインティーンコスプレーション

この世から、ある日突然姿を消してしまった人への気持ちを、どう整理していくのかの葛藤のお話。

ここは学校なんだね。とすぐ解るセットは最初から最後まで変わることなく、どこか活気がない雰囲気をうまく醸し出しています。時間はみんながオフになっている放課後なのでしょう。誰もいない場所にいる二人。
制服を着てるけど、どこか雰囲気が合わない男の子と、いかにもそのまんまな女の子。
何度かアクションは繰り返され、我々観客はだんだんそれの意味がわかってきます。

高校生がリアルに高校生として悩む話ではなく、そこから精神的にある程度成長しているんだけど、過去の想いも引っ張っちゃっている微妙なお年頃の大学生になっている二人が繰り広げていく、という話の筋がなかなか素敵です。この話だったら、この二人を演じるのは30歳過ぎのベテラン役者さんが大学生をやっても、もっと深みが出てワクワクする話に仕上がったかもしれません。
尺の短さもこの湿っぽい話に観客がウンザリしたり、付いていけないよ。とはならない、程よい切り上げ感で、救いが出来ているように感じます。

一人二役を演じる女の子は、小山リツコを演じる時は、あえてイケてない雰囲気を強調する髪型や振る舞いをすることによって、もう一人の、今はこの世には居ないチイちゃんが、どれだけ綺麗で可愛くて性格もいい子だったかを観客の想像の中にしっかり植えつけてくれます。少なくとも今目の前で演じてるような女の子とは対極の方向の子だったんだろうなと。それを高橋ユウタ演じる男の子が補完するようにイメージにしっかり肉をつけてきてくれるので、見ている私達も悲しみがより強くなってくるのでしょう。

そして羨ましく感じたのが、全体に漂う大阪感。別のどこをどうと強調してるわけじゃないのに、東京や他の地域とは明らかに違う、独特の雰囲気がしっかり醸し出されていました。
あべのハルカスっていうすごく高いビルがあるのは東京者の私でも知ってますが、彼らの会話の中でさらっと出てくるこの単語には、彼らしか感じられない素敵な世界がたくさん詰まっているようにも感じられて、ちょっと悔しい気すらします。
この先も、他の地域の人達ではなかなか出していくことはできないだろう、この素敵な大阪感をしっかり出して行って欲しいなと思います。