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レビュー

審査員講評 椎木 樹人 氏

椎木4

総評

様々な個性の学生演劇が集まっていて、総じて演劇作品として楽しませていただき、当初の期待以上に刺激的な大会でした。

さすが各ブロックの代表。それぞれの団体が演劇において表現したいスタイル、目指す姿がしっかりとあったように感じました。これからの伸びしろも明確に感じさせていただきました。

これからの演劇を担っていくであろう新しい才能に出会わせていただきましたし、なによりコロナ禍という時世において、これだけの学生と作品が一堂に会するという機会自体が、とても貴重であり、奇跡のようにも感じる数日間でした。

全国から出場した学生、実行委員をはじめ運営やサポートを行った方達も貴重な交流を体験できたのではないでしょうか。

個人的に、表現は経験や出会いによって向上していく部分がかなり大きいと考えています。

この交流を糧に更に表現を続けていってほしいですし、これからも交流を続けていって、切磋琢磨してくれることを願っています。

福岡の観客にとっても、有意義で楽しい大会であっただろうと思います。

私個人としても、自分の表現を顧みる大変価値のある時間にしていただきました。来年以降の大会も注目していきたいと思いますし、学生演劇にさらに興味をもつきっかけになりました。

どうもありがとうございました。

 

 

A-1 ふ「三時間目 死後」

左京ふうかさんの一人芝居。作演出も担当し、正に彼女の魅力一本で勝負していく作品でした。

目を引く存在感と、一人二役などを用いない、一人の登場人物を演じ続ける俳優としての胆力を感じました。ただ、舞台の使い方や構図などの演出的なアイディアが乏しく、その印象の通り、左京ふうかさんの人物としての魅力と、作品における主張しか感じないのがもったいないなと思いました。

演劇として作品にすることで、もっと飛躍が産まれてほしいですし、表現の面白さで作品に流れるテーマやメッセージを更に光らせることができると思います。それによって、観客が受け取れるものが増えるだろうと思いました。

左京ふうかさんと演劇の化学反応がもっと起きれば、更に魅力的な作品になるだろうなと思います。とても素敵な俳優だからこそそう思いました。

 

A-2 劇団カチコミ「蝋」

異常な勢いと熱量で、やりたいことをやりきる!そんな潔さを感じる作品でした。

このメンバーでしか作れない、「ノリ」をとても感じて、それはほかの誰にも真似できないスーパーオリジナルでした。そしてそれが嫌な感じがしない、不思議なバランス感覚も持ち合わせていました。

演劇表現としてとか、演劇のセオリーとして、みたいなことをすっ飛ばして観客を巻き込んでいくのは単純にすごいと思いました。

と言いながらも、後半少し演劇っぽくなるところとか、演劇がやっぱり好きなんだとも感じさせてくれました。更に演劇を知って、劇構造などを用いれば、もっと骨太な印象を与えることができるのではないかなと思います。

このメンバーでしか作れない絶妙なバランスの表現をしていると思います。もしかしたら演劇だけではなくて、他の表現やメディアでも活躍できるのかもしれないなどと、勝手な妄想も膨らむ、集団としての魅力が前面に出た作品でした。

 

B-1 北海学園大学演劇研究会「ラブホに忘れ物した」(映像上映)

映像で拝見しました。等身大な、実体験に近いものを題材にした作品なんではないかなという印象でした。

個人的な問題を、リアリティをもって表現したのではないでしょうか。ただ、お話に山があまりなく平坦に過ぎていった印象です。

また、転換の工夫が乏しく、安易に暗転を使った転換を連発してしまうことで、観客の集中力を削いでしまっていたのがとてももったいなかったです。

映像的に感じてしまったので、もっと演劇の舞台構造を活用して転換していくと、演出的にももっと面白くなったのではないでしょうか。
静かに進んでいく作品だったので、細かい演技が映像では伝わりづらく、できることなら生で観劇したかった。学生ならではの感覚で作られた作品だと思いますし、共感する世代がしっかりといる作品なんだろうと思いました。

 

B-2 劇団Noble「晩餐」

食卓を囲む男女二人の会話劇で、宗教か哲学かそんな雰囲気の中、生と死、命を中心に大きなイメージを表現した作品だと感じました。

閉塞感を感じさせながらも、登場人物たちは焦らず何かを待ち続けている。あきらめのようにも見えるが、その会話は軽やかで、暗くなるわけではない。現代の空気感を感覚として受け取るような感じでした。

明確なメタファーなどを配置していないことで、様々なイメージを想起することができるのですが、とっかかりが乏しく、どうしても受け身になってしまうのがもったいないのかなと思いました。観客に対してフックになるセリフやアイテムがもう少しあれば、そこから観客はもっと能動的に作品にアプローチできるのではないかなと思いました。

スタッフワークへのこだわりを感じましたし、とりわけ音響照明に関しては、全団体で一番優れていると思いました。

 

C-1 劇団烏龍茶「くだらない」

墓地でたまたま会った三人の女性の独特なテンポ感と行間のある会話劇

軽妙でユーモアを散りばめた台詞、三人の女性の絶妙な関係性、時折顔を見せるテーマやイメージは共感性が高く、観客に想像力を働かせる作品でした。

私は俳優の演技が洗練されてるとは思えず、独特な空気感は実感がない立ち姿に見えてしまいました。扱ってるテーマに関しても、俳優にとっては曖昧で、本当に表現したい作品にまで立ち上がってるのか、そこが疑問で、僕にとっては完成度の低い緩い作品だという印象でした。しかし、脚本演出のセンスの高さからか、その曖昧さが、作品の奥行きを作っていたようにも見えました。

意図したものかそうでないのか。観客にとってはそんなに問題ではないのかもしれないですが、創作側としては今後作品を作り続けていく上でとても重要なことだと思います。

私にとってはこの作品の評価が一番難しく、他の審査員ほど評価が高くないのが本音です。でも、それだけの印象の違いを作り出せること自体が優れている点なのかもしれないとも思います。

 

C-2 劇団イン・ノート「賢者会議」

高校生の日常にある恋愛や友情をコメディタッチで切実に描いた作品。鍛錬の成果や散りばめられた演出的なアイディアを感じる完成度の高い印象を受けました。誰もが思春期に通ってきた共感しやすい感覚をしっかりとエンターテイメントとして料理していて、幅広い観客層が楽しめる作品だったと思います。笑いのセンスも高く脚本の巧みさも光っていたように思います。一朝一夕で作られたものではなく、俳優のグルーブ感も培われてきた関係性の深さを感じます。ただ、衣装をTシャツにそろえて、小道具も使わずマイムを主体に進んでいきますが、高校生という設定、途中で出てくるドレスの下りなどは衣装をしっかりと用意したほうがより効果的だったのではないかとも思います。

全体的に好感を持てる作品でとても楽しませてもらいました。メンバーの層の厚さがうらやましいほどで、中々これだけ揃うということがないと思うので、ぜひこれからも劇団として精力的に活動を続けていってほしいと思ってしまうほど、将来性も感じました。

 

D-1 劇団しろちゃん「曲がったハハハハの人々」(映像上映)

映像で拝見しました。序盤に畳みかけるような演劇的アイディアの応酬、一気に高揚感を覚えました。ただ、そこから徐々に説明不足な展開になっていき、ついていくのが必死になって観ている感覚としては失速していくように感じました。

エンタメ性が高いが、難解な設定が観客を少し置いてきぼりにしてしまうのが、バランスとしてちぐはぐな印象です。おそらくとても緻密に作られたプロットがあるのだと思いますが、それが伝わっていない。一人二役を演じる俳優とそうでない俳優がいたりしたことで統一感がなく、それもわかりにくくしている要因かなと思います。

基本的に常にBGMが流れている印象で、もう少し静寂の時間があったほうがメリハリがついたとも思います。

ただ、映像ということもあり、演者の表情などの情報が圧倒的に少ないので、生で観れていたら印象が変わったかもしれません。

俳優はとてものびのびと魅力的に演じていて、舞台上を所狭しと暴れまわる姿に好印象でした。

全体的に楽しいのに、苦みと引っ掛かりがある、噛み応えがある作品だと思いました。

 

D-2 演劇企画モザイク「大山デブコの犯罪」

寺山修司の傑作に真っ向から挑んだ作品。しかし、その域を出ない、オリジナルの要素や解釈、そもそもの寺山作品への理解が足りてなく感じ、逆に粗が目立ってしまったかなという印象でした。

もっと研究を進めるか、もしくは現代の若者の新しい解釈が観ることができたら、すごく面白くなると思いました。

この時代に寺山作品をやるこだわりや愛情を感じましたし、台詞に対してのアプローチをかなり鍛錬を積んだんであろうと、そこがとても好印象でした。

なぜこの題材をやるのか、この脚本の魅力はなんなのか、などのスタートラインの準備やモチベーションをしっかりと持って改めて挑んでほしいと思いましたし、それをこの時代にやることはとても価値のある創作活動だと思います。

全体の演目の中でも異色で、その創作のスタイル自体が魅力的で個性的な団体でした。

 

 

椎木 樹人 氏 プロフィール

Shiiki Mikihito

万能グローブ ガラパゴスダイナモス 主宰

 

2004年、福岡を拠点に万能グローブガラパゴスダイナモスを結成。主宰を務める。以降、劇団のすべての作品に俳優として出演。

北九州芸術劇場プロデュース、九州を代表するプロデュースシリーズに多数出演、名実ともに九州を代表する俳優の一人。

また、福岡の放送局のテレビ番組にレギュラー出演するなど、メディアへの進出も積極的に行っている。

外部出演も多数で、東京、大阪、韓国などの公演に参加し、活動は福岡にとどまらない。