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レビュー

東北連合の観劇レビュー

東北・東北連合

高知県 谷相 裕一さん(TRY-ANGLE)より

kochi

自宅(すみれ荘)のブースから放送しているラジオ番組「憂鬱100物語」。パーソナリティの山瀬和久がゼミの飲み会に参加した話から始まる。

人付き合いがあまり上手ではないと思われる山瀬の人物像が垣間見えるエピソードだった。

ラジオ放送の翌日訪ねて来た人物がNHKか宗教の勧誘だろうと推測する場面では、昨日今日住み始めたわけでもない学生御用達のアパートにそういった勧誘が来るとしたらなかなか怖いなと思った。

結果、隣の部屋に住むラジオのリスナー長谷川がもうすぐ引っ越しするのでハガキを読んで欲しいというお願いにやって来たのであったが、実は架空のラジオ番組で実際は放送していなかった。

例え同じ大学で隣人だったとしても部屋で聞き耳をたてていたと話す初対面の人物を部屋に入れる心境は怖さよりも自己満足である架空ラジオのファンと言って貰えた嬉しさが上回っていたように感じた。

実際会話の最中、山瀬は段々と饒舌になっていく。

記念に二人の番組を収録するのだが、フリートークでの気まずい感じと二人の対照的なエピソードに最初は自分と同じタイプの人間だと思っていた長谷川が段々違うタイプの人間なのだと気付いていく流れは妙にリアルだった。

少し気になったのは最初に長谷川を部屋に入れて会話する場面と二人でのラジオの場面。

構成上仕方のないところかも知れないが座ったままの時間が続くのでリアクションの際にもう少し動きがあれば良かった。

ラジオ収録の最中に掛かってきた長谷川への電話のやりとりを聞いて長谷川を陽キャだと確信し収録を中止するが、恐らく二度と無いと思っていながらも今度仕切り直そうと声を掛ける山瀬に何とも言われぬ哀愁を感じた。

「二人でやったラジオは [……全文はこちら

 

京都府 神田真直さん(劇団なかゆび)

kyoto

 かなり久しぶりに学生の演劇を観劇しました。本作では、学生にとって切実な問題が愚直に、わかりやすく描き込まれています。どんなものに対する悪口も、簡単に見つけることができるようになった昨今です。学生≒若者は、出会うものすべては否定可能であることを知り、信じ抜くことができません。そんな学生≒若者の行き着く先には孤独しかない。そういう現実を本作は突きつけるものです。
 現代を舞台にした、リアリティのある長いドラマは描きにくくなっています。別役実はある年の岸田國士戯曲賞の講評で、このことについて「情報としての世界が広がり、状況が重複しあい、ひとつのドラマが他と相殺されがちで無化する傾向にあること、さらには、ドラマの形造るべき対人間関係が、地域共同体、家族共同体の崩壊により、構造として確かめ難くなったこと、などによるもの」と述べています。本作は、ひょんなことから新しい人間関係が構築され、新しいドラマが生まれるように見えますが、すぐにそれを諦めてしまう、今の学生≒若者が孤独に陥る過程そのものであるように思いました。それは30分という短い尺で描くのにとても適していると思いました。それと同時に、この30分で描き切れてしまうほど、学生≒若者の生活には拡がりがないのではないかとも思いました。
 学生≒若者としつこく言いました。本来は、学生も若者ももっと多様な存在です。しかし社会は明らかに、学生を若者というカテゴリーに押し込み、わかりやすい存在であることを求めてきます。男が働き、女は家庭に入るみたいな形の幸福以外の幸福を想像する豊かさがこの社会にあるかは疑問です。このように私もまた、この社会を信じられ[……全文はこちら

 

 

奈良県 おまつ松の下さん

nara

サーチライト。サーチライトとは、特定の方向に強力な光線(ほぼ平行光線)を投射するための反射体を有する装置(Wikipediaより)で、主な利用は探索や監視の照明器具の一種だ。

 この物語の主人公は、自らを世間から外れた絶滅危惧主としている山瀬という男子大学生。

彼は自宅からどこに配信するでもなく、夜な夜な製作・録音している。 

 ある日、番組のファンだという男が山瀬の部屋を訪ねてくる。毎晩壁から聞こえて来る声をきいていた。引っ越す前にハガキを出させて欲しいという男は隣人に住む同級生らしい。

 彼と共にラジオ収録の企画をし、楽しいひとときを過ごす山瀬。しかし、弾まないトークが進む本番中、大学生活を存分に楽しむ長谷川との

格差を明確に感じた山瀬は、長谷川が飲みサー仲間からの電話に出たことをきっかけに収録を中断してしまう。その後、再び二人が会談することはなく、長谷川は予定通り引っ越してしまった。山瀬とのことなどもう薄れてしまっているかもしれない。無数の思い出の一つとして残っているかもしれない。

 山瀬は変わらず一人でラジオを録っている。内容は、他愛ない。嫉妬・諦めと屈折を重ねた身辺話。相も変わらず愚痴話。が、ふいに原稿を丸めて捨た山瀬が語りだす。自分が長谷川に自分と同じタイプなんじゃないかと期待を寄せていたこと。そうではない、自分には眩しすぎる人だと確信し、自分の心を磨り減らしてでも

何処か期待をして収録を迎えたこと。でもやっぱり彼は自分とはおなじじゃなかったこと。畳掛けて語り終えた彼が、「楽しかった」とぽつり、口にしたところで暗闇になり、発言通り楽しそうにオープニングを喋っている二人の収録音が流れてこの舞台は幕を閉じる。

 最初に説明を載せた[……全文はこちら