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レビュー

審査員講評 山本卓卓 氏

2山本様クレジット記載必須_撮影:雨宮透貴

A-1 Route「恐怖!奇想天外舘」

遊園地のお化け屋敷のバックヤード「ゾンビ」「死神」「殺人鬼」の会話、という設定は面白い。徹底して昨今の若者の軽いノリで言葉も劇のテンポも進行していく。この「若さや軽さ」にこだわりのようなものを感じた。コガが大学の授業で好きになった彼女(リン)が、彼氏(リョウ)とのデートでこのお化け屋敷にやってくる。それを知ってコガが傷つき嫉妬めいた行動で彼らを「ゾンビ」や「死神」や「殺人鬼」で過剰に怖がらせていく(若いぜ)。しかしだんだんコガもわかってくる。コガ自身はうじうじしているだけでアプローチをしてこなかったのだから、デートに誘ったリョウのほうが相手として一歩進んでいるのではと。だからコガは応援というスタンスを選び彼らの交際を祝福する。つまりそれって「そこまでリンに惚れていなかった」ということの証明だと思う。コガがこの「人間の愛の正体」に気づき本気で惚れられる相手をみつけられたらいいな、と思ったころにほんのりタンジという希望が残されていた。それがロマンチックでよかった。

 

A-2 ぽやぽやバケーション「巡り、めぐりて」

床の白いロープが間取りを表しているのが瞬間的にわかる。この瞬間的にわかる、を設定することは演出の采配で非常にうまくいってると思うし、物語の内容とこのロープがリンクするのも巧みだと思った。シェアハウスに住む隣り合わせの部屋の男女、という設定を、左右(非)対称的に見せていくのも納得しながらみた。全体的にゆっくりと淡々と、まるで形式化したような所作は、こだわりだと思った。男と女の視線のやりとりがなされながら、最終的にはロープという物理的な「線」で女の希死念慮を表現し、間取りを取り除き空っぽの部屋をみせることで心の空虚さを表現するあたり、策士!と思った。今後の活動がとても楽しみ。

 

A-3 大胆不敵ダイヤモンドダスト「we.weRE.カコウ,」

身体性や詩的な言葉を用いて想像力の世界へ誘おうとする「物語」にこだわった作品だと思った。物語は「カコウ」を巡って奔放にあっちへ行ったりこっちへ行ったり、最終的には火山が噴火したりする。台本を読むと「これどうやって演出するの?」と思うのだが、照明が先導して俳優や観客を劇世界へ導いていく。照明のこだわりを感じ、舞台美術も日常にありふれたトイレットペーパーなどを駆使して異世界をつくりあげていた。終盤の「ここにはいない誰かのために残して伝えていかなくてはならない」というような台詞はこの団体が「物語」にこだわっている理由なのだと思えて好感を持った。

 

B-1 劇団ちゃこーる「口紅と十五」

思春期の男子の欲望「好きなあの子になってみたい」という理由からスカートを履いてみるも「脱げなくなる」という、不条理劇。シチュエーションとしてはワンアイデアだなとは思うけれど、作家のほぼほぼ処女作だという今作が「ワンアイデアを深堀りできた」ことに激励を送りたい。この劇は、十五歳の男子が、男子であることに疑問を持ち、女子になってみる(好きな子になってみる)も、やっぱり自分は男子だったと再認識する、そういう話だ。性のめざめの話というより、自身の性の迷いと、誤認と、再認識、の過程の話。その過程の中で主人公は「自分で選択をしていく、主張をしていく」ことを学ぶ(それまではなあなあに受け入れていた晩御飯のメニューを自分で「すき焼きが食べたい」とはっきり主張する)。不条理劇の構造を持ちながらも、内実はひとりの男子の成長譚としてブレなかったところがよかった。

 

B-2 ギムレットには早すぎる「今ーちゃー」

一人芝居だったわけだが。45分の時間をひとりで持たせるにはその俳優に力がないと無理だし、力だけの問題じゃなく、なんというか「猫とか犬ならずっといつまでも見ていられる」みたいな、そういうある種の動物としての「チャーム」がその人間にないとキッツイ。今作は山下万希さんというひとりの俳優の「チャーム」が、劇の言葉と物語と共闘して観客に「感動」を与えていた。シンプルに「いい話だなあ」と思えたし、主人公に昔の自分を重ねたし、応援したくなった。この「いい話」が、悲劇に転んだとしたらもっと感動したかもしれないけれど、それは私がいろいろと経験しすぎてしまったからな気もする。いまの世界には今作のようなピュアな「いい話」が必要だと思った。

 

B-3 ターリーズ「ファはファンシーのファ」

まずは開始早々に物語の核を観客に理解させる構成力が良いと思った。この物語の舞台は「ファンシーは精神を貧弱にする」から「強い国」をつくるために「ファンシー検閲法」で厳しい取り締まりが行われている20XX年の日本。このようなわけのわからない設定を早い段階で観客に理解させ、内実マイノリティの迫害を扱う重たいシリアスなテーマを、表向きはコミカルでスピーティな言葉と演出でデコレーションしている。このことについて、つまり重たいテーマがコミカルさで覆われることを嫌う観客もいるかもしれない。実際僕も「そんなにコミカルにしようとしなくても・・・」と思うところは多々あった。けれどもところどころ「日本から亡命しなくちゃ」などと言った台詞や、踏み絵ならぬ「踏みファンシー」で表現する「時代の進んでなさ」などから「この作品は社会劇なのかもしれない」と思った瞬間から一気に信頼を持てた。

 

B-4 劇団ダダ「悦に浸れないなら死ね」

大いなる謎が物語を牽引していく魅力的な脚本だった。病の話かと思いきや心霊の話になったりスピリチュアルっぽくなったり、ともすれば素っ頓狂な劇中劇になっていたりと、戯曲はとても奇妙なバランスで成り立っている。個性的、という言葉が最もよく似合う劇団だと思った。演出的にもう少し、ディテールへのこだわりというか、なぜここの間を詰めるのか詰めないのか、みたいなことについてひとつひとつ稽古場で検証していったら化ける気がする。それをやりたくない、というなら話は別だけれども。冒頭から物語を牽引してきた謎が、最後もぜんぜん解決されない「大いなる謎が謎のまま終わる」のもなんか、よかった。

 

C-1 餓鬼の断食「或る解釈。」

「男女数名で構成されるグループがサウナに行くために一度家に集合している」という無理のない設定と、現代口語で会話される自然な若者の言葉と、しかしリアルなスピードよりもしっかり強弱や緩急をつけた演出とで45分を飽きさせなかった。台詞の運びも巧みで「ググれば?」のひとことで状況をわからせてしまう(誰かの親がでかめの何かをやらかした)描写力や、若者たちの引きこもごもの色恋や人間関係を目線のやりとりや立ち位置で表現していて「こいつら何者?」と良い意味で思った。惜しむらくは45分では色恋や人間関係が最後まで描ききれていないと感じた点。90分のフルスケールで観てみたい。そう、こちらに「次も観てみたい」と思わせる劇団だった。あとスタッフもキャストもみんな華があってよい。

 

C-2 劇団ゲスワーク「革命前夜、その後」

この作品も「大いなる謎」が物語を牽引している。観客の心を「何か大きなことが起きてしまうかもしれない」緊張状態にさせ、実際それは起こるのだが、当初想像していた「最悪の出来事」までとはいかない。例えば梶井基次郎の「檸檬」のようなささやかな革命、事件としては小さいけれど心の中では大きな革命、が立ち現れる。こうした心の中のことを表現するのにこの劇団は長けていて、終始観客を魅了していた。個人的には、舞台上の俳優間のコミュニケーションがもっと双方向になってから、それを束にして観客に届けるような意識を持つともっと良くなるとは思った。どことなく全体に漂う「死の気配」を最終的に回避して「生きちゃってるししょうがない」の境地を感じられたような気がして泣けた。

 

C-3 劇団二進数「脇役人生の転機」

冒頭から観客をノせていこうという気概を感じる。実際にファンが定着し、劇団の色も出始めているのではないか、客席に漂うそこはかとない期待値を確かに感じた。実際行き届いた演出と達者な演者たちに、私も安心して観ていられた。あと、個人的にこの劇団の笑いが好みだった。言葉のチョイスとか、あえてスベらせて落とすとか、エンターテイメントとしての計算力とセンスに目を見張った。欲を言えば観客を「楽しませる」ことのみにもっとフォーカスするのか、それとも「楽しませる」以上の何かを提供するか、どちらの路線でいくのか、知りたい。演劇に人生観を根本から変えられてしまうような体験を期待してしまう私には、「火事」のエピソードだけでは少し物足りなかった。でもきっちり45分をエンターテイニングする力は感服だし俳優もスタッフワークも素晴らしいので次も観てみたい。劇団二進数の名前が演劇界を賑わすのも、モチベーション次第で、そう遠くない未来のようにも感じた。

 

 

山本卓卓 氏 プロフィール

(やまもと・すぐる|SUGURU YAMAMOTO)

 

劇作家・演出家。範宙遊泳代表。1987年山梨県生まれ。

幼少期から吸収した映画・文学・音楽・美術などを芸術的素養に、加速度的に倫理観が変貌する現代情報社会をビビッドに反映した劇世界を構築する。

オンラインをも創作の場とする「むこう側の演劇」や、子どもと一緒に楽しめる「シリーズ おとなもこどもも」、青少年や福祉施設に向けたワークショップ事業など、幅広いレパートリーを持つ。

アジア諸国や北米で公演や国際共同制作、戯曲提供なども行い、活動の場を海外にも広げている。

ACC2018グランティアーティストとして、19年9月〜20年2月にニューヨーク留学。

 『幼女X』でBangkok Theatre Festival 2014 最優秀脚本賞と最優秀作品賞を受賞。

『バナナの花は食べられる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞。

公益財団法人セゾン文化財団フェロー。

https://www.hanchuyuei2017.com

 

撮影:雨宮透貴