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観劇レポート 於保匠さん

カテゴリ: 全国学生演劇祭開催後の劇評

2018.2.28

第3回全国学生演劇祭の演目を観劇し、舞台の模様を広く伝える”劇評/レビュー”を書いていただく方を募集しレポートを書いていただきました。

 

於保匠(おほたくみ)さん

 京都大学工学部一回生の学生です。大学に入って、観劇の面白さに気がつき、暇さえあれば、小劇場に足を運んでいます。演劇部に所属したことはないので、演劇に関して全くの素人です。とにかく思った事だけを、書かせていただきました。

 
 

①Aブロック 劇団宴夢 

「熱血!パン食い競走部」

 パン食い競争に命を懸ける人達の物語。メロンパンの位置が、高すぎて取れないことで、自信をなくす梶原と、それを支え励ます仲間たちと顧問の先生。最後は、メロンパンに無事手が届き、幕をおろします。

 なんだかほっこりしました。自分が好きな場面は米の卒業式。パン食い競争に命をかけるべく、米を食べないことを、みんなが誓うのですが、その時の、パン食い競争部メンバーの悲しそうな顔が忘れられない。この世の全てが終わったようにゆがむ顔、震える体。パン食い競争だぞということを忘れてしまうぐらいの迫真の演技でした。作品中には5人出てくるのですが、個人的には小松君が一番つぼでした。東北から、パン食い競争の為だけに、札幌の学校に通うことになった小松君。劇中ずっとパンを食い続けていて、食べることが大好きなぽっちゃりキャラです。米の卒業式では、彼だけ、放すと約束していたオニギリを放さずに、泣くのですが、その姿をみるとこっちまでかなしくなりました。

 作品の構成は、非常にシンプルで、とても分かりやすかったです。くだらないことに命を燃やすパン食い競争部、とにかく笑わさせてくれました。


②Aブロック フライハイトプロジェクト

「今夜、あなたが眠れるように。」

 まず、見せ方が独創的で素晴らしいと感じました。時間、場所、演じる人物が、めまぐるしく変わっていく。しかしながら、私達観客をおいてきぼりにすることなく、とても分かりやすいストーリーであり、本当に素晴らしかったです。

 若葉の成長、反抗期、若葉の母親の子供の頃の話、若葉の母親の母親の子供の頃の話、なぜおばあちゃんがあの花が好きなのか、若葉が母親と寝なくなったきっかけなどが目まぐるしく変わる場面の中で、明らかになっていきます。

 舞台には、一つのベッドと、それを仕切るカーテン、その他、複数の四角い椅子しかないというシンプルなものでしたが、シンプルだからこそ、様々に雰囲気を変える舞台を見せてくれました。

 生と死が重なり合う、最初と最後がもっとも見所でした。4人が舞台走り、駆け回りながら、「若葉」の生誕とおばあちゃんの死が重なり合います。不思議で、奇妙な感覚。心がふるえました。

 深い人間観察力から生まれた素晴らしい作品であると感じました。


③Aブロック 元気の極み

「せかいのはじめ」 

 内容は難解で分かりにくいですが、何か心に引っかかるものがあり、また見たいと思える作品でした。

 とにかく独創的で攻めているように思いました。小説からの朗読を所々で用いたり、観客席から立ち上がり演劇を始めたりするなどの、独特な見せ方で観客を魅了していました。

 演劇の始まりとは、何だ?チケットを買った時なのか、舞台のカーテンが上がったときなのか、役者が話し始めた時か。

 世界が始まるってなんだ?自分がいないときは世界が存在していないのか?きっと存在しているでしょう。でも自分の世界は存在していない。自分が生まれたときが自分の始まりと言えるのか?意識がないのに、どこから始まりといえるのか?また、自分の終わりとは何だ?意識がだんだんと、薄れていく最後、自分はの世界が終わったと気がつくことさえできないのです。じゃあ、終わりってなんだ?

 「始まりとは何か?終わりとは何か?」をテーマとして壮大な物語を繰りひげているように自分は思えましたが、正直内容はとても難しいです。何回か見て、また自分で物語を咀嚼し直して、やっと少しずつ理解できる作品だと思いました。


④Aブロック 楽一楽座

「Say! Cheese!!」

 一生懸命ふざけ通す、大学生の熱い魂を感じました。ザダイガクセイ。最初から、最後までとにかく笑顔をもらえる作品でした。

 これは、脚本を書く青年と、その周りの役者をめぐる大学の演劇サークルのようなものの物語です。青年は、楽しくて笑えるコントのようなものを書きたがっているのですが、メンバーの一人は、シリアスでメッセージ性の強いストーリーを望んでいる。

 幾つもの短い演劇のストーリーを、章ごとに演じていくのですが、その一つ一つが、個性溢れていてとても、面白かったです。坊主が、バンドを組んだり、変な教祖みたいなのが現れたり。かと思えば、男と女の青春ラブストーリー。のりのりで、自分によっている、しゃべり方がとても滑稽で、笑わずにはいられませんでした。

 しかし、だんだんと、関係ないと思われた章ごとのストーリーが、つながっていき、最後は最初の場面の結末が描かれる。最後の場面で仲間の一人が話のなかで、この様なことをいいます。「たった一人だけでも、あそこにたどり着ければ、俺達の勝ちだ」この言葉に、何か感じた人はおそらく自分だけではありません。

 良いこと伝えようっていう雰囲気を全く漂わせずに、何か心にくるものを伝える。とても幸せな気持ちにさせてもらえる作品でした。本当に素晴らしかったです。

 

⑤Bブロック ヲサガリ

「ヲサガリの卒業制作」        

 オタク達が繰り広げるストーリーです。

オタクというのは、あれほどの情熱を込めてアイドルを応援しているのでしょうか。オタク達が織りなすアイドル愛が痛いほど、伝わってきました。最後にオタ芸(ダンスとか、ジャグリングとかのライブを盛り上げるために観客席でやる芸のこと)を披露する所があるのですが、一生懸命に踊っている姿になんだか、とても感動してしまいました。意図的なのかは分かりませんが、完璧には動きをあわせずに、踊るのは程よいリアリティーがあって良かったです。作品中の人々は、それぞれに仕事を持っていて、だから、そんなに、練習する時間もない訳で。そんな時間のない中で、みんな頑張って練習したんだろうと思えました。

 クスッと笑えたのは、ラインのメッセージを口頭でテンポよく述べていく所。言葉で「かっこわら」「ダブリューダブリューダブリュー」。面白かったです。スタンプの形を口頭で説明するとこんなに面白くなるのですね。

 オタクの概念を一変させるような良い作品に出会ったなと思いました。


⑥Bブロック 喜劇のヒロイン

「べっぴんさん、1億飛ばして」

 天才的なストーリー展開であるなとうなってしまいました。発想力がすごいです。また、演じる人たちのユーモアのセンスもピカイチでした。脚本の面白さはもちろんのこと、演じ方で最大限にその脚本の面白さを発揮できていると感じました。素晴らしかったです。

 ストーリーは、全く違う人が、弟にすり替わる所から始まります。彼の姉だけが、そのすり替わりに気がつくのですが、他の人はみんな気がつかない。姉は、弟を探し回るのですが、その間に、父が変わり、ペットが変わっていくという奇天烈な喜劇です。

 最後のシーンでは、姉が夢から覚めます。ペットも父も元通りになりますが、弟だけは、性格しか元通りにならず、外見は別人のままでした。それを見て、姉は「良かった」と言うのですが、その言葉にはどのような意味があったのでしょうか。考えてみると、非常に恐ろしく、そして深い一言であると思います。

 最初、彼女は、おそらく、外見と性格ともに別人に成り代わってしまった弟をどうしても受け入れる事が出来なかったのでしょう。普通の感覚です。しかし、よくよく考えてみると、弟が別人になったからって、何がいけないと言うのか。むしろ、うるさく馬鹿な元の弟より、静かで、言うことをちゃんときく素直な今の弟の方が、良いかもしれない。また、父に関しても、全然、家にいない元の父より、ずっと家にいる今の父の方が、良いかもしれない。ペットは犬より、ネコの方が良いかもしれない。結局のところ、家族なんて誰でもいいのかもしれない。なんとなくで、家族は、かけがえのないものだと信じているが、変わってみれば変わってみたらで、新しい家族も全然悪くない。この新しい家族観への気付きは、ある意味、恐ろしいものかもしれません。

 理知的なユーモアを携えながら、最後には、何か心に残るものを感じさせてくれた素晴らしい作品でした。


⑦Bブロック 砂漠の黒ネコ企画

「ぼくら、また、屋根のない中庭で」

 体に病気を持つ人々が、ベンチのある公園のようなところを訪れる話です。そこにはどんな病気も治せる先生がいます。

 体の悪い部分を草木で表現する見せ方で、まず一気に作品に引き込まれました。幻想的で独特な空気を作り出していて、素敵でした。ビジュアル的には、一番インパクトのある作品で、今もあの舞台の映像が、はっきりと脳裏に浮かびます。

 自分が一番印象に残ったのは、目の悪い女性が先生に目を治してもらうシーンです。女性は目を治されたせいで、ものすごく悲しみます。目が見えるようになったせいで、かつて見えていたものが、見えなくなってしまったと嘆きます。かつて感じていたはずの、温もりが消え去ってしまった。悲痛な叫びを残して、その場を立ち去るのですが、前半が、平坦だっただけに、あそこの衝撃はすごかったです。心がふるえました。

 自分にないもの、他人と比べて劣っている所を誰でも捨ててしまいたいと思うが、それが無くなったところで、人は幸せになるのか?そんなことを感じさせてくれた、作品でした。

 

⑧Cブロック 三桜OG劇団ブルーマー

「スペース. オブ. スペース」

 面白かった。終始面白かったです。仲良し5人組が繰り広げるストーリー。隕石落下を信じて、明日はないのだからと、どんちゃん騒ぎ。そして、最後の結末は、衝撃的なものでした。

 物語の中盤にかけては、仲良く5人で遊ぶ姿が描かれていました。誰がアイスを買いに行くかを決めるジェンガのようなゲーム、アイスを分け与える暖かい友達関係。明日は来ないと信じている人達とは思えないくらい、楽しいそうな5人。

 しかし、結末に近づくにつれて、時折みせる不気味で、不可解な表現に気がつきます。演劇の最初、音楽にのせて、肩を不気味に上下させるシーンがあります。なんだか怖いなと感じるのですが、照明がついてからの楽しそうな光景をみて、その不気味さを忘れてしまうんです。怖く見えたのは、自分の勘違いかなって。でも、二度目、また同じように、肩を上下するところに出会って、やっぱりなんか不気味だなって、感じて。そのようにして、結末に近づくにつれて、だんだんとその物語の異常性に気付かされていくんです。

 一人、眠り。二人、眠り。終盤には、逃げだそうとして、捕らえられ、グルグル巻きにされていたひとりが、口テープを外されます。彼女の苦しそうに酸素を求める息づかい、そして、その部屋にある一つの火鉢。そこで、やっと物語のすべてを私は理解しました。

 背筋をぞくりとさせる結末、その結末を知ると、以前の楽しそうな表情を見せながら、じゃれあう光景さえも不気味に思えました。

 お客さんに真実を最後まで気がつかせないストーリー展開、本当に秀逸でした。自分にとって、一番、面白いと思える作品でした。結末知ってなお、また再び、見てみたいと思える作品でした。


⑨Cブロック LPOCH

「溺れる」 

 溺れるってどういう事だろう?この作品を全て見終わってから、やっとこのタイトルの意味が、分かったような気がします。

 心の声を語る人物が、狂おしいほどに感情を込めて、一音一音言葉を発するのですが、素晴らしかった。言葉が出てこないことの苦しみ、出さなくてはいけないときに声を絞り出す苦しみ、最後信じる人に、感情の思うがままに、言葉を発する開放感。感情の嵐が、心に流れこんできました。

 とてもメッセージ性の強い物語でした。そして、その強いメッセージ性に負けないくらいの俳優陣の表現力が際だっていました。とても素晴らしい作品であると思いました。


⑩Cブロック はねるつみき

「昨日を0とした場合の明後日」

 神様誕生を描く壮大なファンタジー?作品でした。次の、人類の歴史こそは素晴らしいものになって欲しいという願いを込めて、神様は地球上の人類を壊滅させるミサイルを打ちます。このミサイルで、その神様は死んでしまう。そして、地球上には、たった二人の男女だけが、生き残る。神様が選んだ、2人の男女の家系がまた神様として生きていくわけです。

 神さまは、選んだ女を憎みます。この女は神さまの友達です。何故、神さまが彼女を怨むのかというと、生き残るもう一人の男とは、神様の彼氏だからです。その時の、一人ぼっちの神さまを包む、悲しい空気は、私たちにも流れ込んできました。

 神さまは、最初、非常にユーモラスに描かれます。最初出て来たときの一言は「新キャラ」。変なものをいつも首に巻いていて、神さまなのに、普通の人間と同じように、会話しています。そして、普通の人間になることを望んでいます。

 そのユーモラスさと神さまの悲しすぎる境遇が、自分には、対比されているように感じました。面白かったです。