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レビュー

審査員講評 山口茜氏

山口茜

〇総評
全国学生演劇祭の審査員を務めるのはこれで2回目です。前回は台本を読んでから観劇しましたが、今回は読まずに観劇し、感想を文字に落とす際に台本を参考にするという順にしてみました。ですので、劇場で喋っていたことと違うことを書いているかもしれませんがご容赦ください。基本的には上演されたときの印象を述べているつもりです。今回上演されたものは、観客を笑わせようという意気込みの感じられる作品がほとんどだったように思います。また一人芝居の割合も多く感じました。2020年の時とは随分空気が変わったなあと思いました。演劇が、関わる人の人生を豊かにするものでありますように。

 

◯萌Co.『大草原不可避』(名古屋学生演劇祭推薦)
人間を優しく愛ざすとても好きな世界観でしたが、一人で300席の劇場を席巻するエネルギーが足りないように感じました。最初は声が小さいのかもと思いましたが、だんだんと、これは台本と演出の関係のところで何かエネルギーが相殺しあっているのかもしれないと思うようになりました。観客を楽しませることが重要だと感じていることはよく伝わってきました。できればその土台である台本に、もかさんが何にどうしてもこだわってしまうのか、と言うことが探求された跡が見えれば、演出もそれを手がかりにより強度が増し、本来のもかさんの持つ力強いエネルギーが客席まで届いたかもしれません。

 

◯劇団あまおと『玉座』(中四国学生演劇祭推薦)
全9団体の中で、唯一笑いを取らずに45分上演し切った団体でした。その姿勢はとても素晴らしいと思いました。一方でジョージ・オーウェルの『1984』を読んだことのない人に届くかどうかということはあまり配慮されていないように思いました。この点については私自身も苦労してきたのでその大変さはよくわかります。しかしせっかく名作をやるのだから、できれば観客と共にその世界を味わいたいと思われていたはずです。これは私から提案ですが、今回の作品にもしまたチャレンジするなら、演出家が人間の身体のあり方について想いを馳せる時間を取ってみてはどうでしょうか。稽古場では俳優同士、身体を通してコミュニケーションを取ります。観客もまた、舞台の上にある身体に対して、それぞれの身体で物語に向き合います。そんな身体の複数性こそが、大衆の均質性に抗うために必要なものだと私は思います。演出の手法が原作のテーマと接続するのは結構楽しいのではないでしょうか。

 

◯ペイント・タレント『いってしまえばマリッジブルー』(大阪学生演劇祭推薦)
二人暮らしをする男女の部屋を中心に、その二人が見ているテレビのコメンテーターや、家にやってくる営業の人、配達員らがなぜか一堂に介して暗い場所に紛れ込む、という複雑な話なのですが、観客を混乱させることなく整理して演出されていました。二人の男女の会話は細部にリアリティが宿り、そういう経験をしたことのない私でも、感動できるクオリティの高いものでした。また、部屋の中に、機械音(お風呂が沸いたお知らせアナウンスなど)だけを担当する生身の女性がずっといるのも、意味がなくて面白かったです。どうしても気になったのは、テレビの人たちの声質の荒さで、時折、少し耳が痛いというかうるさく感じました。しかしこれは俳優のせいでも声の大きさの問題でもないように思います。誤解を恐れず言えば、演出家が、作品を発表することの不安を、笑ってもらうことで解消しようとしていたからではないかと思います。それが俳優を経て、私の方に強く伝わってきたということではないかと推測しています。

 

◯劇団愉快犯『銀河紀行』(京都学生演劇祭推薦)
一人で40人超の登場人物を演じきるお芝居、最初はとても面白く、一人で300席と対峙していることにワクワクしたのですが、45分間、演技の強度やスピードは一切落ちなかったものの、こちらが感情的に巻き込まれるということはなく、常に少し引いた状態で観察するという観劇体験でした。40人超の人物同士の会話が、演者の身体に積み上がっていく余地がなかったように思いました。それはもしかしたら、スピードやエネルギーの大きさを45分間キープし続けなければならないという縛りによって失われていたのかもしれません。


◯劇団ちゃねる『さよならシャトルラン』(とうほく学生演劇祭エキシビション参加)
この作品で私がとても普遍的だと感じたのは、男はあくまでヒーローになりたい男であってヒーローではなく、女は自分のことを怪人だと思っているという、この設定です。女性が、自分のことを「怪しい人」だと認識するこの感覚はなかなかリアルで、それがビジュアルでもよく表現されていました。ヒーローが可愛い女の子を助ける話を特に観たくない私には、非常に幸福な観劇体験でした。このように設定が自分にとっては非常に手触りのあるものだったので、最後まで楽しんで観ることができましたが、台本を改めて読み返してみると、一つの設定を掘り下げていく前に別の設定に移っているようにも見受けられます。次に台本を書く際には、自信を持って、同じところを掘り下げてみてほしいです。そうすることで、特に今回の設定に興味がない観客にも届く力が得られるかもしれません。

 

◯ミムガム『ミ☆ツ』(東京学生演劇祭推薦)
お店、電車など、日々のルーティンの中で、ほんのひととき会うだけの人たちとの関係を描こうとしたことに好感を持ちました。欲を言えばその関係を、身内との人間関係と対比して語るともっと面白かったのではないかなと思います。通りすがりの人に親切にできる人が、家に帰って家族に怒鳴っていたりする。家で子供を可愛がった直後に、お店の人に悪態をつく人もいます。両方に対して親切だけれど孤独な人もいるでしょうし、両方に対してどこまでも親しくあろうとして社会のルールを踏み越えてしまう人もいるでしょう。登場人物におけるそれぞれの身内との関係が、たとえ舞台上でほとんど語られなかったとしても、設定として十分に練られていたら、それがセリフや衣装や振る舞いを通して滲み出てきたはずです。すでに3人の出演者はとても魅力的だったので、そういった奥行きのある役であったとしても、十分に演じ切ったのではないでしょうか。

 

◯劇団とかげのしっぽ『残光』(名古屋学生演劇祭推薦)
台本を確認すると、この作品は最初の3分ほどがとても重要なシーンなのですが、ちょうどそのタイミングで、客席前方でビニール袋の音をしつこく鳴らす観客がいたため、舞台への集中が削がれて残念でした。この作品については、演出が隅々まで行き届いていたことに感銘を受けました。セリフや動きのスピードやエネルギーに頼り切るのではない丁寧な演出でした。つい笑ってしまうところがたくさんあるのですが、それらは俳優の発語の統制や、照明の効果を逆手に取った演出によって巧妙に作られていたと思います。そのせいなのか、私は、本番を観た日から数週間経った今でも、舞台で見たあの花屋に、行ったことがあるような気がするのです。論理的に考えればヘンテコな花屋なのですが、この花屋さんにも、この店員さんにも、どこかで会ったことがある、そう思わせてくれた貴重な舞台でした。


◯カブク『改装中』(北海道学生演劇祭推薦)
恋人同士である二人のとある日の会話を、それぞれの立場から2回演ってみるという作品です。一巡目を観ている間に、徐々に観ているものの内側に形成される思い込みを、二巡目で裏切っていくと言う構造には既視感があるのですが、しかしこれを一人芝居としてやることの必然性が、構造によって担保されていたことに感銘を受けました。ただおしまいのところで、主人公が悲しみに浸る絵は、それまでのシーンと全くテイストが変わったせいか、戸惑ったのも事実です。おそらく作者が何かまだ、観客の心に届けきれてないものがあったのだろうとは思います。その感覚は信じて良いのだと思うのですが、その方法が「絵」ではなかったと言うことなのでしょう。


◯トロイの箱馬『どうしようもなく特別な私』(福岡学生演劇祭推薦)
タイトルに惹かれました。そうだよな、私のことはどうしようもなく特別だよなと、それがタイトルになると言うことは、どんなドラマが待っているのだろうと楽しみにしていました。しかしタイトル以上のものがこの作品に描かれていたかというと、そうではなかったように思います。始まりは出演者の個性的な魅力で心を掴まれるのですが、時間が経つにつれ、舞台上で何が起きているのか、最終的に頭でも身体でも理解することができず、悔しく思いました。訳がわかってもわからなくても良いのですが、何が見せたかったのか、何を感じて欲しかったのかが、出演者の個性以上には伝わってきませんでした。時折とても魅力的なセリフがあったので、ぜひそのセリフは大切に育んでいただきたいと思いました。