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レビュー

審査員講評 あごうさとし 氏

総評

2010年代の学生の感覚とはどういうものかに、関心をもって見ました。劇団しろちゃん以外は男の性欲が共通していましたね。やっぱり若いんだね。それ自体は結構なことだけど、割にそのまま出てきているから、もう少し考えるなり疑うなりした方が、いいかな。ともすれば若いのに古い感じがします。舞台芸術として作品を評価せよ、と言われれば、とりあえずもっと疑いをもってほしいなと思います。現代芸術を更新するのは、やっぱり次の世代じゃないでしょうか。

 

 

  • 相羽企画

小気味よく、トントンすすんで会場も笑いがおこり、迷い無くきっちり提出されている。だけども、戯曲・演出・演技いずれもテンプレート的で、使い古されているものばかりなのが残念です。決まり事にとらわれ過ぎると、かえって不自由になります。突っ走りながらも、時に足を止めて、色々な舞台作品や他分野の作品に触れて、感性をやわらかくしつつ、知見を広げて深めて、また、突っ走ってください。

 

  • 劇団しろちゃん

肝心の「ぼく」の演技は、考えてほしいな。11才の少年にどうしても見えない。途中、女に切り替わる仕掛けで、なぜこの俳優が演技をするかというのはわかりましたが、そしてそのアイデアは面白いのですが、舞台は舞台で現におこっていることがやはり重要です。11才の少年を大学生が演じるという時に、何をもって11才の少年として提出するかは、難題ではあるが、極めて重要な作業であり、それを考え実践する所に面白さがある。戯曲は情報量が足りていないかな。きっと考えていることを反映仕切れていないと思うのですがどうでしょうか。

 

  • 劇団西一風

しっかり組み立てていると思います。息を落とさず最後までひっぱっていく着実さと力強さを感じます。俳優も魅力的で、娯楽性も高い。特にセーラー服の少女は印象的に残っている。ただ、芥川の何を否定したのでしょうか。俳優のアウラやタイトルなどに、ある毒性が香るのですが、割とそのままな性欲の発露で、そこは退屈です。力量や人気はあると思いますので、面白い主題を捕まえて欲しい。

 

  • コントユニット左京区ダバダバ

最初のレストランのシーンは、秀逸でした。不条理劇の作家性というものを鮮烈に感じることができました。
作品がずれて行きながら回収して行くという事だったが、作品の質が、知性と力技の間で揺れる。情報という事でなく、力学的な構造としてぶれる。このブレ自体は面白いが、その扱い、焦点のあて方にまだまだ考える余地がある。狙いが絞られると、演出家は俳優に対してもう一歩踏み込めると思う。解散すると書いておられますが、是非続けて欲しいです。

 

  • 劇団冷凍うさぎ

戯曲・演出・俳優・美術に基礎体力がある。年の若い俳優が、良く夫婦を演じ、美術にもセンスを感じる。演出は良くコントロールしている。
ただ、この作品の重要な登場人物である兄妹・カニの夫婦に対する俯瞰の具合に遠慮を感じる。「人間の温かさ、冷たさ」というテーマをも突き放して考えると良いと思う。決して派手ではないが、演劇に対して重要な冒険心を内包している。サービス精神にとらわれず、やばいなと思うことをもっと進めてみてはどうでしょうか。ところで、あの題材を選んだのは何故か聞いてみたい。
私はこの度の審査では、劇団冷凍うさぎを押します。今後の作品への期待と、継続の意思を持っている点で、強く推挙します。

 

  • 東北大学学友会演劇部

とてもうまい。本当に良くできている。構成もうまく、フリも無理なく回収されている。俳優は全員感じもいいし、嫌みもない。偏りというのも無く、群を抜いて、均衡のとれたチームになっている。部員60名という下地の迫力を感じつつも、こういう出会い方というのは、なかなか無いのではないでしょうか。素晴らしい事だと思います。あえて苦言を呈すなら、90年代から2000年代初頭に既に提出された若者演劇の踏襲という感じだから、刷新性・現代性・批評性を意識しているようには感じられないのが、物足りなさを覚えます。