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レビュー

審査員講評 金山寿甲 氏

金山のコピー

A-1 劇団焚火「いけないらしい」

赤阪陸央さんが脚本・演出・出演を行う一人芝居で、上演前に行う舞台美術の設営時間にも意味ありげに登場し、転換時間をも0場として捉えようとする貪欲な意志を感じました。理想通りにはならない人生の葛藤みたいなものが描かれていくのですが、僕にはどうしても「赤阪さんならきっと大丈夫」と思えてしまいました。終盤で舞台セットをぶち壊すシーンがあるのですが、釘が何本も散らばっているところを裸足でズカズカ歩く姿はとても勇ましく、どんな困難があろうと「俺に任せろ!」と言い切っちゃう演劇のほうが赤阪さんにしっくり来るように感じました(もしくは演出に自分ではなく別の人を立てるとか)。いずれにせよ、ほとばしるエネルギーと一人芝居に挑戦するに足るパーソナルな魅力は十分に感じました。感心したのが、唾や涎などを舞台上に撒き散らしていなかったことです。あれほどの熱演を帯びてくるとどうしても唾や涎を垂れ流してしまいがちですが、前から二列目で見ていた僕からはそういった汁物は一切確認できませんでした。そういった意味でも舞台上をコントロールしていたと思います。

 

A-2 劇団ちゃこーる「演撃所」

演劇への想いをケレン味なく放出した愛すべき清々しい作品でした。とにかくハイテンションさが凄まじく、あの勢いのままに45分間を演じ続けた白藤さんと内田さんにまず拍手を贈ります。そして中毒性があるとも感じました。終始ハイテンションでありながら不快感が全くなく、45分間ずっとお二人のパッションを浴び続けることができました。脚本と演出を担った白藤さんには、もっとコアでもっと白藤さんにしかできない演劇を突き詰めてほしいと願います。少し残念だったのが、劇中に挿入されていたラップです。やるならばもっとがんばってほしかったです。あの程度で「ラップやりました」では、他のカルチャーの現在地が全く見えていない人たちという見方をされてしまいます。ましてや名古屋はヒップホップが熱い地域です。演劇でも名古屋を熱くしていって下さい。

 

A-3 劇団蒼血「せんこう、消ゆる時」

今大会の9作品の中で、写実的なアプローチで臨んだ作品は本作だけでした。状況設定や舞台セットなど、その世界観の提示の仕方は見事なものだと感じました。俳優の芝居も素晴らしく、照明などトータルしてそのままどこかの劇場でかかっていても全く遜色ない水準の上演だったと思います。しかし、それゆえに少し粗が見えてしまった部分もあったように思います。僕は元来、演劇の重箱の隅をつつくタイプではありません。たまに演劇のお客さんで、「あの設定は法律的に見ておかしい」とかの感想をあげているのを見ると、このお客さんは演劇に一体何を求めてるんだろうと思いますし。ただそれと同時に、見てる側に重箱の隅など気にもさせないような作品であってほしいという思いもあります。本作に関しては、劇中に取り入れた様々な仕掛け(キャラ設定など含め)のリアリティラインを見つめ直すことより、仕掛けや彩り部分を排除して本筋のみで勝負してよかったように感じます。脚本、演出、俳優の技量を含め、その力が備わっている団体だと思います。僕なんかに、「酔っ払いの回復具合にリアリティがない」なんて言われたくないじゃないですか。

 

B-1 どろぶね「ノアの泥船」

今大会で2作品あった一人芝居のうちのひとつで、渡邉愛実さん演じる大学生の一夜が描かれます。自分の部屋で課題のダンスの練習をしているという設定から、次第にシリアスな要素を帯びてくるのですが、渡邉さんの演技(大和田さんの演出も含め)がシリアスに振り切らない微妙なラインを保っていて素晴らしかったです。東日本大震災で実際に被災した渡邉さんと大和田さんのお二人が提示したかった超個人的な部分での3・11への想いが十分に感じられました。という僕の感想自体が3・11を一括りで捉えているようで、本作の感想として的外れな気もしてしまうのですが、、、でも素晴らしい作品でした。願わくば、やっぱり最後にダンスを披露してほしかったです。課題のダンスを一夜漬けで練習している大学生のお話です。そこはやっぱり最後にフルでダンスしてほしかったです。そこを見せずに終わるという選択を取った意図も終演後に伺えたのですが、理由のひとつに「ダンスができないから」ともお話していました。そこはグズグズなダンスでいいんじゃないでしょうか。スタイリッシュに終わるより、泥のように踊るダンスのほうが『ノアの泥船』な気がします。再演があるならば再考してみて下さい。そして、この先も盛岡で演劇を続けていくと伺いました。その言葉にも感動しました。僕も葛飾区で演劇を続けていきます。

 

B-2 青コン企画(仮)「贋作E.T. の墓」

とても気持ちよかったです。演劇作品を見た感想としてはあまり使われないかもしれませんが、見ていてすごく気持ちがよかったです。テンポといい俳優4人の一糸乱れぬ動きや発話に至るまで、スパンスパンといちいちはまってきて、テトリスで3段4段と連続して崩していくような快感を覚えました。劇中でコスられる映画の『E.T.』や『2001年宇宙の旅』や、野田秀樹さん作品からの影響も見られ、年齢と作風にギャップを感じたのですが、終演後に伺ったときの「そういうのが好きなので」というシンプルな答えまでも気持ちよかったです。深読みのしどころの多い内容で(審査員の田辺さんによる考察を伺い)、脚本を担う藤原千代さんは今後すごい台本を書くんじゃないかと思わせてくれるものでした。台詞が文学性に過ぎるようにも思ったのですが、文学性のかけらもない僕にチューニングを合わせる必要もないので、我が道を突き進んでもらいたいです。いつか京都のロームシアターで上演するようになって、劇場の前のスタバで演劇論を語り合ってもらいたい。そんな風に思えるチームワークの素晴らしいナイスガイの集団でした。

 

B-3 ギムレットには早すぎる「らぴっど・ふらっと・ぷらっとほーむ」

超絶におもしろかったです。自分が彼らと同世代だったり笑いに重点を置いた演劇をやっていたらきっと嫉妬していただろうなと思います。終始一貫センスに満ち溢れているのですが、特にすべっている(すべらせてる)台詞に最もセンスを感じました。最後に漫才をするシーンがあり、この漫才が微妙にすべっている(意図的に)のですが、このすべり方(すべらせ方)のセンスに僕は感服しました。近い将来、東京に進出すると伺いました。東京でぬるい笑いを提供している劇団の皆さん。ギム早(ギム早と略すそうです)を知って戦々恐々して下さい。

 

C-1 23Hz「アンビバレンス」

子と母の間に生じるアンビバレンスというテーマを、優しく丁寧に描いた作品でした。舞台装置もシンプルで美しく、クリック音によりシーンが目まぐるしく転じていく構成もよかったと思いますが、もっと大胆にアートに振った演出を施してもよかったのではと感じました。俳優のお二人を役から開放してみるのもひとつですし、もっと美術に依存した構成をとってもいいかもしれません。色々なことが試せる作品であり座組でもあると思いますので、もっと感性のままに打ち出していってほしいです。

 

C-2 劇団さいおうば「アキスなヨシオ」

全作品中で最も観客から笑いを取っていた作品でした。キャッチーな設定から、観客を誰一人取り残すことなくラストまで連れて行く技術は素晴らしいと感じました。俳優も一人一人それぞれ印象強く、今後東京の小劇場界で活躍するだろうなと想像します。ですが、本当はもっとできる団体なのでは?という気がしてなりません。いい設定は考えついたのですから、あとはこの設定でどれだけ遊べるかです。見ていて安心して笑えるのですが、それは観客の想像の範疇にとどまっているとも言えます。合格点を高めに定めてネタ出しを繰り返し、脚本の強度を強めていって下さい。辛いですが、それが脚本を書く楽しさでもあります。などと偉そうに言っている僕なんぞをあっという間に飛び越して、2年後くらいに人気劇団になってそうな気がします。

 

C-3 劇団ど鍋「林檎をあなたに」

他の作品が全て標準語であったのに対し、本作は地元四国の言葉で台詞が語られ、作品の世界観にぐっと引き込まれました。抑制された会話劇ながら、狂気じみてくる後半はホラー的でもあり、俳優2人の演技力が素晴らしかったです。照明や音響などの演出効果も最低限にとどめられていて好感が持てました。僕の感想ですが、終盤の長台詞のときに流れる音楽も、ラストシーンの赤い照明も必要なかったように思います。あの使い方ですと、「ここ大事な長台詞ですよ」と言っているようなもので逆に冷めてしまいます。芝居だけでも十分構築させられると思いますので、俳優2人に委ねてみてもいいのではないでしょうか(稲葉さんは演出兼俳優でもありますが)。想いの全てを台詞で喋ってしまうところに、もう少し脚本としての工夫があればと思いました。ところで、さき役で本作の脚本も書いているかみさきえりこさんですが、NHKの朝ドラのヒロインみたいだなぁと思って僕は見ていました。

 

 

金山寿甲 氏 プロフィール

放送作家の見習として活動したのち2008年に演劇ユニット東葛スポーツを結成。以降東葛スポーツにおける全ての作品の脚本と演出を担当。ラップやサンプリングなどヒップホップからの影響を受けた演出が特徴で、俳優が本人役で出演するなどオートフィクションの手法を用いてリアルとフィクションが交錯する作品を発表している。2022年に上演した『パチンコ(上)』で第67回岸田國士戯曲賞を受賞。

 

プロフィール写真 撮影者/田中大介