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レビュー

審査員講評 村川拓也 氏

総評

 今回は面白い作品に出会うことができなかったけど、ここから始めればいいと思います。初めから面白い作品を作ることは、人によると思いますが、なかなか難しいので、今回自分たちが作った作品をもう一度批評的に見直して、どこをどうすればもっと面白くなるのかを再考し、次の作品に向けて更新していけばいいと思います。それぞれの作品を見ていて、実は「演劇をつくること」自体がみなさんを邪魔しているように感じました。演劇をつくっているのにその演劇のせいで、自分達を自分達で面白くなくさせていると感じました。演劇というものはこうであらねばならない、という硬直した固定観念がどこかにあるのではないかと思います。たぶん、稽古中の休憩時間や、稽古が終わったあとどこかに飲みに行ってべらべら喋っている時や、働いている時や、一人で居る時の方が殺伐として面白い時間になっているのではないでしょうか。硬直した演劇のせいで自分達が汲々としてしまうなら、演劇をつくること自体の考え方を変えて、自分達に合った新しい方法論を発明すればいいと思います。演劇はいつの時代も掴みどころのない不安定な表現だと思います。始めから演劇というものはなくて、結果として演劇は現れてくるのだと思います。演劇を作るのではなく、演劇を発見することが大事だと思います。

 

  • 劇団未踏座(1)

 俳優の感情の変化を説明するために照明変化を何度も使い、それがあまりにも多くて、これでは俳優がまったく見えて来ないので、ダメだと思った。俳優やそもそも演劇の時間を信用していないんじゃないかとさえ思わされる。何が面白くて演劇をやっているのかを一つでもいいから掴んでおかないと作品なんて作れません。もう一度、演劇のどういう部分が面白くてやっているのか考え直した方がいいと思う。

 

  • 演劇ユニットコックピット(2)

 骨箱に息子の遺骨が入っているはずが、中にはビー玉しか入ってなくて、そのビー玉を幼なじみの女の子が勢い余って飲み込んでしまい、後日、体から出てきたそのビー玉を息子を亡くした父親に返す、その女の子の体から出てきたビー玉が亡くなった息子の魂のように思えてくる家族と友人達が、ビー玉をすごく大切に扱う、というビー玉の流れが面白かった。どうやってビー玉が体から出てきたのかを想像してしまい、少し笑えた。

 

  • poco a poco(1)

 「就職ナビ」とかのテレビCMみたいだなと思った。演劇だけではなくて、テレビとか広告の業界でも活躍できるんじゃないかと思った。

 

  • 劇団しろちゃん(1)

 よくわからなかった。他人の色恋沙汰や浮気の問題は基本的に観客にとってはどうでもいいことで、よくあるパターンの男と女のいざこざを見せられているだけであった。そういう物語を使って別の何かを表現しないとダメだと思う。

 

  • 劇団サラブレット(1)

 舞台美術が一つもなくて、人だけでやっていたので一番シンプルだった。雰囲気がぐだぐだで、演劇のセオリーみたいなものが壊れてしまいそうになる瞬間があり、これは一つのチャンスになると思った。ブレーキをかけずにもっとやりたいことをやってしまえばいいと思った。例えば、お母さん役の人がだだをこねるシーンなんかは、もっと長くていいし、どこまで長くできるかに挑戦してみるのもいいと思う。これは一体何の時間なのかが分からなくなるぐらい続けてようやく演劇の面白い時間が流れてくるのだと思います。

 

  • 劇団ACT(2)

 始まりから終わりまでずっとブオーンっていう抽象的な音楽が流れていてこれはダメだと思いました。音楽を流すと簡単に雰囲気が作られてしまうし、その雰囲気の中でやっていると、まったく違った他のイメージや時間が生まれなくなります。音楽に頼らずに、俳優や演出で緊迫した時間をつくり、それを更新していかないと、ただ一つの美学みたいなものだけになってしまうので面白くないと思います。観客はずっと音楽が鳴っていることを知っているし、それがどんな効果になっているかを冷静に見ています。なんとなく使っているようでは観客にばかにされると思います。

 

  • 創像工房 in front of.(1)

 一番将来性を感じる人達だった。彼らがこれからどういう感じの演劇をつくり、どういう感じの演技を磨いていくのが見えるようだったし、目指す所がはっきりしていると感じた。演劇にはどうしてもジャンルがあり、彼らはあるジャンルの演劇に向かっていくのだろうと思います。だからこの人達は演劇を続けると思います。続けたらいいと思います。

 

  • かまとと小町(1)

 これまた男女の色恋沙汰と浮気の物語だったと思う。森の小屋みたいなセットがよかった。カーテンコールの後、次の公演の宣伝をするのはやめた方がいい。

 

  • プリンに醤油(1)

 よくできたコントなんだと思う。なにも考えてない感じがいいと思う。とにかくこういうのは人を笑わせることだけに集中して鍛錬していけばいいと思う。