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企画

審査員講評 永島 敬三 氏

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出揃った九作品、非常にバラエティに富んでいて一つ一つとてもわくわくしながら見ることができました。

皆さん、本来とは異なる形での開催にあたって苦労されたことも多かったと思います。しかしそんな中にあっても、全ての団体が真摯に表現に向き合っている様を目の当たりにして、とても勇気をもらいました。

多くの作品が「自分」を見つめ直すものだったように受け取りました。このような状況だからこそでしょうが、その切実さはどれを取ってもグッと刺さってくるものでした。また、同じようなテーマであってもこれだけ手法も見つめ方も様々なのかと、演劇の可能性を再確認することが出来ました。

短い時間ですが皆さんとリモート上でお話をする時間をいただけた中で、実際の上演ではなく映像で見せなければならないということに戸惑ったという声を聞くことができました。これは今まさに演劇を作る全ての人間にとって課題とするところで、その可能性や必要性を共有できる良い場になったと思います。

審査においては、今回皆さんがどこかで持っていたであろう「自問自答」というテーマを全体的にクオリティ高く丁寧に描いていた、ポケット企画『ここにいて、』を推しました。(※実行委員会注:この一文は表彰式後に公開しています)

 

 

劇団宴夢「ルーモ1.255」

 

つかみどころのない数字や単語の応酬や思い切った間の取り方が、全体を通して心地よい緊張感を生んでいました。明かりと音の使い方が素晴らしく、抽象的な空間にうねりを与えている鋭い演出だと思いました。

演技の面では、少し一辺倒な印象を受けました。遠くのものに呼びかけたいとか、近くにいるものに思いを伝えたいとか、作品のテーマでもある「ディスタンス」を意識するならば、もう少し声の色や大小で彩りがあってもいいんじゃないかなと感じました。

素舞台で具体的な小道具も無い舞台なので、俳優さんたちがどれだけ見えないものが見えているのか、そしてそれを観客に感じさせられることが出来るのかが大切なのではないかと思います。バレーボールがどんなスピードでトスされてアタックされたのか。望遠鏡の大きさや重さはどれくらいなのか、それを受け渡す時の緊張感はどれだけあるのか。フェイントを掛け合うことが登場人物にとってどれくらい楽しいことなのか。そういった一つ一つの要素をもっと見る側に感じさせてくれたら、この良い意味でつかみどころを与えない物語の中での、大きな拠り所になり得るのではないかという感想を持ちました。

作品としては、瑞々しく、懐かしいような感覚を与えてくれたものでした。大きく広げた世界に切実なことが込められていたと受け取りました。だからこそ、大きな中で繊細さを表現し切ることこそが大切なのだとではないかなと思いました。

 

 

 

ポケット企画「ここにいて、」

 

素晴らしかったです。へその緒や自分の付けた足跡を見つめて、考えて考えて、言葉にならない言葉を互いに発していく時間は、とても愛おしく、儚く感じました。

「時間が無い」と言いながら、それでも時間を使ってとりとめもなく考え続け、短い言葉で丁寧に紡いでいくやり取りはいつまででも見ていたいと思えました。内容の明かされないプレゼントや、吉田がずっと持っているへその緒への目線の誘導、一歩一歩足跡を付けながらゆっくりと歩き回るなど、どこをとっても丁寧に演出が施されていて、その動作を見ているだけでも飽きることなく見られました。

二人の会話も、お互いの語りたいことを読み合っていたり、あえて外したりいう間合いの取り方が巧く、描かれていないこれ以前の二人の関係性が想像できる豊かなものでした。何者かを考える人、何者かにならなければならない運命になった人、両者が自分の不安を語りながら、相手の不安も考えてあげようとする優しさがとても心に沁みました。両者の間にあるそういった思いが、へその緒の行く先の話に繋がっているようでした。

また、内容や空気にそっと寄り添う生演奏もとても良かったです。単音もメロディも決して説明的ではなく、主張せずに抱きしめるような音楽でした。明かりも含め派手さはありませんが、そういった細やかなスタッフワークがこの作品の優しさをより感じさせてくれるものになっていたと思います。二人が自分たちの付けた足跡を眺めながら、考え続ける自分たちが「ここにいる」という幕切れも、これからをそっと見守っていきたいと思わせてくれる余韻を上手に感じさせてくれたものでした。

 

 

 

東北連合「深夜、パーソナリティが消えた。」

 

始まり方、設定にはドキドキさせられました。しかしどこか消化不良のまま終わってしまった感がありました。アパートの隣人が訪ねてくるというパターンで何か事件が起きるということは想定できるので、何かこちらの予想を大きく裏切る展開が待っているのではないかと期待してしまいました。今回の場合は、自己満足なはずのラジオが隣人に聞かれていて、しかも実は半年前から興味を持っていてファンだと言い出す。ここまではその後の展開を期待させるものがありました。

しかし残念だったのは、主人公の山瀬が物語の始まりと終わりで何か一つでも成長をしていなかったように見えたという点です。それはポジティブでもネガティブでも構わないのですが、何かどこかが「変わった」という部分が感じられなくてはドラマとしての落としどころに戸惑ってしまいます。ラスト暗闇の中二人の楽しげな打ち合わせの声が流れるのを聞きながら「まだ終わってない!」と思ってしまいました。

最後のシーン、山瀬が一人に戻って語っている中に、もし何か成長を感じさせてくれるセンテンスが入っていれば少しだけでも印象が変わったのかもしれません。ドラマ全体を通してうねりがあり続ける必要は無いと思いますが、二人芝居ならば他者との交流によって、いずれかの人物の変化が見たかったと思いました。

しかし細かい会話のリズムであったり、狭く限定した「部屋」という空間の中での緊密なやり取りにはリアリティがあり、ドラマに集中して拝見することができました。もう二転三転しても耐えうる設定とキャラクターだったので、この後をもし描かれることがあるならば是非見てみたいと思いました。

 

 

 

ごじゃりまる。「こうふく♡みたらしだんご」

 

まず、なんでこんな話を思いついたんだろうと思いました。「みたらしダンガー」という言葉を突き付けられた時点で、もう諦めようというテンションに持っていかれました(良い意味です)。全体を通して、痛快でした。

内容としては、社会のインモラルな部分をそこそこ盛り気味に詰め込みつつ、それらをあえて深堀せずさらっと言いのけて発散してしまえる軽快さが良かったと思います。救っていたはずの人々が実はより歪みを生み出していたという結末も、さらっと自己主張の危うさを問うていて、ただでは終わらせない強かさには感心しました。

もう少し中身のことになりますが、「ナコプロジェクト」なる展開の中でアヤネちゃんが生き残っていくくだり、ミッションの内容は良いと思ったのですが、あそこの見応えがもっと分厚くて笑ってしまえるくらい必死に挑むアヤネちゃんの姿が見たかったと思いました。自分としては、ああいった、話をある程度停滞させる可能性のあるシーンこそ、展開の短さとスピード感で乗り切るのではなく、やる方も見る方もエネルギーを消耗するくらい見応えのある、意味分からないシーンになっていると、よりその後が活きてくるんじゃないと思いました。ああいう場面こそ、その風景が言葉によって描写されていて欲しかった。そこに付随して、ああいったシーンのボリュームや濃度が上がれば、よりフウカという主人公の存在感も増すのではないかなと思いました。全般的に、主人公の割には意外と目立たないような印象があったので、せっかくのラストが少しぼやけてしまっていたかなと思いました。

俳優の四名とも、キャラクターのはっきりした演技がとても見やすく、エネルギーも体のキレも十分で、見ていて楽しかったです。フウカちゃん役の方、踵が終始浮いている演技体だったのですが、あれが狙いならば良いのですが、結構体の勢いを殺されてしまう姿勢なので、少し気になりました。あと「シャッキーン」にもう少しバリエーションが欲しかったです。

 

 

 

ゆとりユーティリティ「満塁デストロイ」

 

観終わった後、「アッパレ」と思いました。まず一人で45分弱を演じ切ったことに敬意を表します。およそ一人芝居で行われるべき脚本ではないように思えましたが、どの登場人物も造形がくっきりとしていて、それでいて切り替えも軽快でした。

内容としては荒唐無稽で何か明確なテーマがあるようには見えませんでしたが、演劇だからこそ許される様式を、スタミナを使って大いに遊ぶ姿は素敵でした。

誰かと誰かが衝突して人格が入れ替わるドラマはいくつか見たことはありましたが、右手になってしまうという発想は面白かったです。これ以降の展開が果たしてこれでベストかどうかということはちょっと分かりませんが、よりギミックに寄った作品である以上あまり気になりませんでした。それくらい、一人芝居の演技にストーリーを牽引する力があったのだという結論に落ち着きました。

強いて何かを望むのであれば、演出によって多少無理が生じる部分を作るなど、ノッキングを起こしかねないくらいスリリングな場面があったりしたら面白かったかなというくらいです。俳優の疲弊度やエネルギーがよく伝わる作品だと思うので、実際に目の前で見てみたいと思わされた快作でした。

 

 

 

劇団Noble「灯火は遥か」

 

いくつかの文学作品からの引用がなされていることもあり、小説的だなというのが第一印象でした。何もない空間を二人の俳優の動きと台詞、照明音響効果のみで30分弱走りきるという潔さには好感が持てました。

俳優のお二人とも呼吸が合っていて、動きも台詞の発し方も洗練されていて素晴らしかったと思います。

内容は、少し自分は乗れなかったというのが正直なところです。モノローグ、対話、引用、回想とめまぐるしく短いシーンがシームレスに続いていく中、語調やテンションがシーン毎にさほど変わらないので、今何がどう起こっているのかというのが、悪い意味でわかりにくかったように思いました。一人で数役を演じているということも、もう少し早い段階で腑に落とすやり方があるのではないかと思います。モノローグ(特に男性)も比較的硬い感触の言葉で書かれているので、今一つ実感を帯びて語っているように見ることができませんでした。文学作品を読んできて、走馬灯もその言葉たちで支配されてしまうくらいだという人物だからそうなる、ということは理解しようと思えばできるのですが、演劇の、耳に届かせる言葉として発せられるものとしては、少し不親切なように思いました。

様々な文学作品の一部分が引用される中で、そのセンテンスが浮いているようにも感じました。必然性のあるチョイスが出来ていたならば、もっと効果的になるような気がします。彼らがジョバンニや李徴のようであるというには些かタッチが軽いという印象でした。

文学的であることと演劇的であることの良いバランスを是非見つけていただきたいと思いました。

 

 

 

あたらよ「会話劇」

 

三つの空間に区切られた舞台上で各々が発話していく始まり方、それぞれの空間で行われるジェンガ、ドミノ、トランプなどのモチーフは、物語がどう展開していくのだろうというわくわく感を与えてくれました。

内容としては、共感性を求めてくるもののようであり、あくまで自分たちの強い主張性を感じるものでもありましたが、そのスタンスがラストでしっかり示せていたら良かったのではないかと思いました。主張はとてもよく分かるもので、「今だからこそ」強く抱く切実なものであることは間違いないのでしょうが、そこが男女の恋愛感情だったり友情関係からのみ沸き起こっているように見えてしまって、少し残念でした。きっともっと背景には示したい要素があるように思えただけあって、いくつかの長い台詞の中にもしそういったものが現れていたら、より感じるものがあったのではないかと思います。登場人物たちを取り巻く「社会」のようなものにもっと触れてみたかった気がします。

俳優の皆さんは、それぞれキャラクターに沿った演技をされていて、リアリティのある佇まいがとても良かったのですが、どこかステレオタイプな印象を受けました。皆さん落ち着きがあって達者なのですが、分をわきまえすぎて揺らぎをあまり感じられず、もう一つ切実さを伝えるには物足りないような印象でした。

あと、LINEでのやり取りと実際の会話のテイストにあまり差異が無いことが、良いのか悪いのかちょっと判断が難しかったです。実際の会話の中にも内面の吐露や状況説明が挿入されるので、対面してする会話の中の緊張感だったり、LINEだからこそ起こりそうなラグや行き違いがもう少し丁寧に描けていて欲しいと勝手ながら思いました。

でも実際、現代の大学生はLINE上であれくらいの会話ができてしまえるのか?とも思い、自分の感覚とのギャップを少し感じた部分もあります。見る世代によってもしかしたら感想が変わってくる作品なのかもしれません。

 

 

 

ふしこ「木青屋服呉」

 

他の団体とはテイストがだいぶ違い、落ち着いたトーンと女性三人のしなやかなで賑やかな会話のスタイルは好感を持って見ることができました。

三人とも声がとても良く、キャラクターの造形にぴたりとはまっていたので序盤からすんなりとその世界に入っていくことが出来ました。台詞のセンスも良く、特に女中さんとゴウさんの噂話には軽妙さと可笑しさがしっかりとありました。

ただ、時代設定や細かな状況が明示されない点が少し気になりました。特に抽象的に進んでいく物語でもないので、そこは親切であっても差し支えないように思いました。また、噂話や憶測から奥様の存在が少し気になりだす終盤に、洋装に思い切って着替えるシーンが、もう少しドラマチックであってもよいのかなという印象でした。時間を使って舞台上で着替えるシーンでもあるし、それを見て女中さんが長年を決意するキッカケでもあるので、ドキッとするような変化が見られても良かったのではないかと思いました。

ラストの部分も少し歯切れが悪かったように感じました。予想できない展開ではないので、あそここそ説明不足であっても十分伝わるように思いましたし、やるならばより信じられる動作の精度を求めてもいい気がしました。

しかし全体としては、短い尺の中で雰囲気をしっかりと示せていた良作でした。

 

 

 

おちゃめインパクト「キャベツ」 

 

とにかく3人の愛嬌がよく伝わってくる作品でした。俳優としてとても大切なことだと思っているので、そこはまず良かったということ。物語の始め方もオープニングの仕掛け方も、唐突で大胆ではあるけど、やりたいことを詰め込むんだという姿勢を感じ、それが却ってその後の訥々とした会話のテイストを引き立たせているように自分は見えました。

「面会ごっこ」という遊びも、姉妹やいとこの関係性をすぐに伝えるために効果的でしたし、あの衝立を置けばお互いに本音を語らなければいけないという登場人物たちのルールも面白かったです。ただ、やり方としては多少乱暴なので、なぜそのような遊びが生まれたのかというバックボーンがどこかで描かれていたら、より三人の関係性も浮き上がったのではないかと思いました。

「キャベツ」という物から妹が自分の価値を考えるという辺りが、物語上でも大きく展開するシーンですし、そのエピソード自体はとても面白かったのですが、その話題をもう少し対話として引っ張っている様を見てみたかったなとも思いました。受け側の二人の沸点が低かったように感じて、もう少しお互いの感情を丁寧に探り合うという時間が持てても不自然じゃないと思いました。

もう一つ、狭い空間の中に「座る場所」が多く存在して、どこを選ぶかによって、その時々の距離感や感情がより明確に伝わるという点も面白かったです。答えを出さない者、出したもの、見守る者、三者それぞれの立場から互いを意識する優しさと厳しさを持ちながら、同じ方向に走り去っていく幕切れは、見終わった後に爽快感がありました。