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レビュー

審査員講評 西村和宏 氏

nishimura2024

総評

まずはコロナ禍を経て、演劇を続けてくださったこと、四国に作品を持ってきてくださったことに同じ演劇人として感謝いたします。特に今の四年生はコロナ禍で入学して、演劇どころか授業もままならず、友達とも会えない状況で、それでも継続して演劇を続けた、始めた人たちです。本当にありがとうございます。ぜひ、社会人になっても、より面白い演劇の創作を目指してそれぞれの場所で頑張って欲しいと思います。面白い作品を作って、周りの人に少しでも演劇の面白さを広げて下さい。皆さんのこれからの活動の発展と継続を心から祈っております。

 

 

A-1 劇団焚火「いけないらしい」

一人芝居という難しい表現を、ちゃんと一人芝居であることに意味を持たせて、飽きさせずに作品を仕上げていました。プロジェクターの使い方や空間の使い方、細かい演出のアイディアにもセンスを感じます。また「おれは何も悪くない」で自分の歴史を遡っていく戯曲の構造も面白いなと思いました。俳優としても身体性が高く、素晴らしいと思います。今回は個人の話でしたが、大学卒業後はもう少し社会に目を向けて、視野が広い作品を作って欲しいと思います。

 

A-2 劇団ちゃこーる「演撃所」

とても素敵な俳優2人でした。ふとした瞬間の表情がとても魅力的で、コンビ仲?も良さそうで応援したくなりました。2人の演劇愛が45分間に溢れている作品でした。もう少し、なぜ演劇が好きなのか、演劇のどこが好きなのかを、深く掘り下げて、それがちゃんと観客に届けられるような工夫があればもっとよかったと思います。地域で活動することの切実さ、が舞台に乗っかってはいたのはとてもよかったので、その中でどう演劇的構造を作るか、ドラマを構成するか、ができると良いなと思いました。

 

A-3 劇団蒼血「せんこう、消ゆる時」

美術がとても良かったです。学生だけでこの美術をたたいて、四国まで運搬して短い時間で立て込んでリハーサルして、その労力だけで称賛されるべき作品でした。作品のリズムを刻む雨音もとても心地良かったです。ただ、リアルな美術と演技体の中で表現されると、戯曲の荒い部分が少し目立ちます。プロット段階の設定、登場人物の出はけをもう少し練る必要があったと思います。描こうとしていることは面白かったので、作家がやりたいことと、作劇的・演出的なすり合わせができればもっといい作品になる気がします。

 

B-1 どろぶね「ノアの泥船」

俳優の声、演技、とても良かったです。一人芝居を45分間、ちゃんと成立させていました。ただ、台本として「ダンスを覚えきれない」という設定に少し無理があるように思いました。何かしらの構造的な仕掛けが必要だったように思います。ミサイルが飛んでくる、ということで唐突な人生の終わりを描きたかったのかもしれませんが、それだけだと観客はついていけないと思います。自分の思う、「演劇の面白さ」についてゆっくり考える、もしくは仲間と話あう時間を設けてみて下さい。いろんな作品を観て、その中で、自分なりの演劇観を身につけていって欲しいと思います。

 

B-2 青コン企画(仮)「贋作E.T. の墓」

観終わった後、隣に座っていた若い男の子は開口一番、「面白かった!」と言っていました。それでいいと私は思います。男四人の個性を活かしつつ、ハイテンポでエネルギッシュで、自分たちの面白さについて意図的であるように思いました。それは、とてもいいことだと思います。私的にはもう少しE.T.が何か他のものに観える時間があるとぐっと面白くなるような気がしました。言葉にできない何かのメタファーとしてE.T.が存在するといいと思いましたが、そこが感じられませんでした。おそらく作家としてはあったと思うのですが、もう少し観客へのヒントというか、言葉の力を駆使して描いたほうがいいと思います。野田秀樹さんや唐十郎さんのような、イメージが爆発するような、何かから絞り出されたような力強いセリフを書く力を身につけて欲しいと思います。

 

B-3 ギムレットには早すぎる「らぴっど・ふらっと・ぷらっとほーむ」

最初はコントのような設定で、少し乗れなかったのですが、俳優がみんな素敵で個性的で、何より、自分たちの面白いと思っていることを素直に追求している姿にとても好感を持ちました。LANケーブルやエスカレーターのアイディアなど、稽古場でみんなが笑いながら稽古している様子が見て取れました。場面の切り替えの早さにセンスを感じます。「列車の遅れをお知らせします」で大学生という自分達の今の場所とこの駅のプラットフォームを重ねたのかと納得しました。今後も自分たちが面白いと思うものを突き詰めていって欲しいと思います。

 

C-1 23Hz「アンビバレンス」

音だけで役が切り替わっていくのが表現としてとても面白いと思います。また、ちゃんと時間経過が説明台詞ではなく、構成と演出で表現できているのもとても良かったです。また、社会問題を個人の問題としてしっかりと正直に向き合っている姿にも好感を持ちました。ただ、戯曲があまりにも直接的すぎて、恋愛だけになってしまい、もう少し余計なことを描いたほうがいいように思います。母親の仕事が何か、習い事をしているのか、好きな食べ物は何か、登場人物のイメージがもっと膨らむような工夫があるとお客さんは共感しやすいように思います。

 

C-2 劇団さいおうば「アキスなヨシオ」

美術の配置や小道具が雑で、どのような部屋なのか、イメージできませんでした。寝室の電話だけマイムなのも気になります。具体的なものを出すなら全部具体的に、無対象にするなら全部無対象にする、などルールを統一してもらわないとどう観ていいのかわからなくなります。もちろん、わざと混沌とさせる手もありますが、そこまで自覚的であるようには思えませんでした。あと、私的には、泥棒がその場所に居続ける、という嘘に乗れませんでした。もう少し納得させてくれるような戯曲上の仕掛けが必要だと思います。とはいえ、お客さんにはめちゃくちゃウケてたのでこれでいい気もします。俳優は皆さん個性的で緊張感の作りたかがとても良かったです。

 

C-3 劇団ど鍋「林檎をあなたに」

自分の気持ちをしゃべるだけの台本になっていました。演劇は状況をつくって、そこに人間がいることが私は大事だと思っています。人間には生活があって、背景があります。そうしたものを書き込まないとなかなか戯曲としては成立しないと考えています。プロのいろんな人の戯曲を読んでみることをお勧めします。その中のワンシーンを稽古してみるとか、まずは誰かの模倣から始めるのもいいと思います。地域では、なかなか学ぶ機会もなく、演劇を勉強することが困難ですが、いい作品を創りたいという熱意やポテンャルは十分感じましたので、是非とも、継続して作品を作り続けて四国の若手を牽引するような集団に育って欲しいと思います。


西村和宏 氏 プロフィール

1973年生、兵庫県出身。1999年より川村毅氏が主宰する劇団第三エロチカで俳優として活動。2002年にサラダボールを立ち上げ、以降すべての演出を手掛ける。2005年より平田オリザ氏が主宰する劇団青年団の演出部に所属。2011年より四国学院大学身体表現と舞台芸術メジャー(演劇コース)にて教鞭を執る。これを機に活動の拠点を香川県に移し、高校生向けのワークショップや市民劇創作、子ども向け音楽劇など四国内で幅広く演劇教育や創作活動を行っている。