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レビュー

審査員講評 蔭山陽太 氏

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総評

まずは今回、4日間にわたる「第2回 全国学生演劇祭」に全国各地の大学から参集した学生の皆さんと、長期間に渡って地道な準備を積み重ねてきた沢大洋さんはじめ演劇祭の開催を支えてくれたスタッフの皆さんに、劇場の支配人として心から感謝いたします。

まさに生まれたばかりの「ロームシアター京都」を芝居の熱で盛り上げていただいたことは、まさに劇場冥利に尽きます。

本当にありがとうございました!

さて、審査員としての講評ですが、一言で言うと期待通り面白かった。二言で言うと期待通り面白かったが、期待を超える芝居ももっと観たかった、ということになります。

言うまでもなく演劇はライブです。それはただ単に「生(ナマ)」であるということだけではなく、今を生きる同時代の世界に向かって「生々しい」何ものかを見せつけるという意味でのライブアートであるということです。

そしてそのエネルギーの源泉は「何故、今それを演りたいのか」という「動機」の強さにある筈です。

ところがその動機を文字にしたり、セリフで語ったりするとたちまち陳腐なものになってしまうことのある、極めて取り扱いが厄介なものでもあります。

ただひとつ言えることはどんなものにせよ、「動機」が希薄なものは観るものに大したことは伝わらないということです。

観終わって劇場の外へ出た時、それまで自分が生きていた世界が違って見えてしまうような、そんな芝居がこの「全国学生演劇祭」から生まれることを大いに期待しています!

 

 

  • 劇団宴夢

まずは四国代表を前にこの題材で乗り込んできた「勇気」に拍手(笑)。

個性的な俳優陣によるテンポの良さが収集のつかないドタバタ劇を最後まで楽しませてくれた。

ただ、劇中で使われているギャグの元ネタが相当古い。題材が時事ネタ絡みなのに全体としては新しさが感じられなかったのは惜しい。

 

  • 劇団西一風

初見の時は自身の体調の影響もあってか正直言ってつまらなかった。おそらく過去に観ていた別の作品のスピード感溢れる演出のアップデート版を期待していたこともあったのだと思う。

ところが再度、観た時にはすっかり印象が変わって、一瞬も見逃せない集中力を喚起される舞台になってた。

ダラダラとして噛み合わない、ほとんど無意味な内容の会話の連続と、目の前で動きつづける作業の様子(音)が意識の底で徐々に混ざり合い、いつの間にかこれまで味わったことのない空気を吸っている感覚に見舞われていた。ただラストの「爆発」は何か新しいものが生まれる瞬間に水を差してしまった様に感じた。「冒険」のつもりが「遠足」になってしまったような・・・。

これからの活動に期待しています!

 

  • 南山大学演劇部「HI-SECO」企画

この作品のタイトルを見るまでは「テクノブレイク」という言葉を知らなかった。 

救いようのない凄まじい悲劇について、その罪と罰を法廷で裁いていこうという試みを舞台化。性と宗教の「整合性」の是非を短時間で語ることは難しく、描かれる葛藤が多少でも省かれてしまうと結果的に「モラル」や一般的な社会通念を後押しするものになってしまう。また、悲劇を「絶叫と涙」で語れば語るほど、観客は想像力を削がれてしまい、その悲劇性から遠ざかってしまう。

意欲的な作品だったがさらなる挑戦に期待。

 

  • 劇団カマセナイ

よく出来た構成になっている台本。爽やかでストレートな演技とよく稽古を積んだテンポの良い会話には好感が持てたが、「優しさ」よりも「喪失感」に収束するような演出であれば、予定調和的な物語を良い意味で裏切る作品になったのではないか。

高校演劇では高く評価される「密度」「集中力」は、それ以外の舞台では必ずしも成果に繋がらない。これまでの価値観を逆さまに転倒させてみた時に、同じテーマが同時代性を持つかも知れない。

 

 

  • 劇団なかゆび

残念ながら一つのバージョン(1回目)しか観ることができなかったが、扱われた哲学的なテーマや、実験的な演出スタイルの試みにはとても興味深いものがあった。

既存のスタイルに囚われないこの劇団の表現方法は観客の多くに強い「違和感」を強制することになったかもしれないが、それこそが何かの始まりであると言える。

作品の量産に向かうことなく、完成度の高さを求めていって欲しい。

 

  • 一寸先はパルプンテ

様々な矛盾や不条理に関する現実的な「お話」が哲学者たちによる「対話」によって次々と演じられていく面白い構成。

ユーモアを交えてテンポよく語られていく「お話」はどれも教訓的な内容で楽しめたが、それだけに終幕の群唱のセリフは少々冗漫な印象を受けた。

九州の6つの大学の演劇部による合同公演ということだが、是非、次回は勝ち抜いた大学の公演を観てみたい。

 

  • シラカン

独特のセンスと洗練されたセリフによるちょっと奇妙な3人の会話は、時間とともに積み重なることに寄って観客を予想不能なとんでもない世界に連れて行ってくれた。

観るものの想像力を膨らませてくれる一見奇抜な舞台美術や「コウノトリ」の存在も相まって、今回出場した他の劇団とは明らかに一線を画す完成度と「大学演劇」という枠を軽やかに超える可能性を感じさせてくれた傑作。是非是非、来年と言わず新作を創って京都に来て欲しい劇団!

 

  • 劇団マシカク

理屈抜きに笑えた芝居。前半よりも後半、1回目より2回目の方がキレが良くなっていたので、上演を重ねれば重なるほど観客をツボにはめることが出来るだろう。

この路線で行くなら、セリフやギャグもブラッシュアップして迷わず徹底的に極めていって欲しい。

 

  • 岡山大学演劇部

優しさに溢れた「絵本」の様な作品。そこには「家族」の人間関係や、人々の生涯がまさに「ありふれた日常」の連続として描かれている。だがしかし、そうした典型的な「ありふれた日常」というものが本当にあるのだろうか・・・。

これはこの作品に対する根本的な問いかけとなるが、もし「ありそうで実は誰にも当てはまらない」ものであるとするならば、逆説的にこの舞台はその存在価値を失ってしまうのではないだろうか。

これからも芝居を創り続けるにあたって、是非、今回の作品について劇団の中で話し合ってみて欲しい。

 

  • 幻灯劇場

コインロッカーに捨てられ生と死を分かたずに生きる登場人物たち・・・。まるで唐十郎作品へのオマージュであるかのようなエネルギッシュで熱量の高いポエティックな舞台。

俳優たちのよく鍛えられたダイナミックな動きは、今回出演していた劇団の中で群を抜いていてとても見応えがあった。

それだけにさらなるグレードアップを期待!

(個人的には歌とダンスを倍増して欲しい)

 

 

蔭山陽太 氏 プロフィール

1964年、京都市生まれ。83年大阪市立大学経済学部入学(89年中退)。86年〜90年、札幌市内の日本料理店にて板前として働いた後、90年に株式会社俳優座劇場 劇場部に入社。同劇場プロデュース公演の企画制作、劇場運営に携わる。96年に文学座 演劇制作部に入社(〜2006年)。2002年、企画事業部を新設、同部長。翌年、演劇制作部を企画事業部に統合、同部長。2006年7月〜2010年3月、長野県松本市立「まつもと市民芸術館」プロデューサー 兼 支配人。2010年4月〜2013年7月、神奈川県立「KAAT 神奈川芸術劇場」(2011年1月開館)支配人。2013年8月より、京都市立「ロームシアター京都」(2016年1月開館)支配人 兼 エクゼクティブディレクター。

98年度、文化庁在外研修員(ロンドン)。