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レビュー

審査員講評 志賀 玲子 氏

志賀玲子-2

総評

 全国から選ばれた、現役大学生の演劇を見るのは、とても楽しみでしたし、楽しみました。ありがとうございます。すでに3年目に突入しているコロナ禍、大学生活のほとんどをその中で過ごしている皆さんのことを思うと、本当に胸が痛くなります。その中で、人が集まって、声を出し、動き、接触なしには成り立たない演劇をやり続けていることに、心からエールを贈りたいと思います。我が身を振り返ってみると、それがどんなにつたないものであったにしろ、若い頃にやった芝居の思い出は色あせることはありません。皆さんにとっても大切な記憶となることと思います。

 私たちが関わる舞台芸術、それは演者の身体にも、舞台空間にもたくさんの制限があります。コンピューターや映像の中では簡単に解決できることも、舞台の上ではそうもいきません。ですから、制限をないことにせず、向き合うことから考えてみたいと思います。観客の想像力に働きかけ、見えないものが共有された時、イメージは大きく広がることでしょう。制限の多いこの身体、この舞台というものを相手に、楽しく格闘してくださることを願っています。

 講評は、「わたしにはこう見えた」というひとつの意見に過ぎません。これを書くことにより、私自身が試されているなと感じています。親子以上に世代の違う皆さんですから、わからないことがあっても当然と思っています。何かひとつでも、先に進むための指針をお渡しできていればうれしく思います。健闘を祈ります。

 

 

A-1 ふ「三時間目 死後」

勢いの良い一人芝居であったが、ハイテンションが一本調子にも感じた。役割を演じ続けなくてはならないという強迫観念の中にいる存在、そして生死を(コミカルにであっても)扱うならば、明るさの中にふと覗く、闇を感じたかった。場面転換のためのつなぎのダンスシーンに、その可能性があったのではないか。台詞を話さない時の、役者の身体が語るものについて考えてみてはどうだろうか。

 

A-2 劇団カチコミ「蝋」

男子校高校から一緒にやっていると聞いた。「君たち、お互いのことが大好きなんだね~」と、にやりとさせられる空気とノリがあった。チープで馬鹿馬鹿しいが、内輪受けには陥らず、笑いに愛があって、憎めなかった。飽きるまでとことんやればいいと思う。安直な笑いならば、やがて飽きるだろう。そしてその先、どちらへ一歩、踏み出すか。ヘタに賢くならないで、笑いを追求してほしい。

 

B-1 北海学園大学演劇研究会「ラブホに忘れ物した」(映像上映)

映像による上演。カットアウトでシーンが小刻みに変わり、次々と流れていく。「生の上演ではなく、映像作品のほうが良いのでは?」と思ったら、映像配信用に創作された舞台作品だという。心象風景のオムニバスといった感じか。もし生で上演していたら、俳優は劇場空間を、観客が見つめる空気を、どのように引き受けて存在したのだろう。存在感が希薄であった。物理的制約の多い生の舞台、映像との違いについて考えてみてほしい。

 

B-2 劇団Noble「晩餐」

終末に向かっている絶望的な状況が、諦念に裏打ちされた、乾いた明るいトーンで描かれる。出現させたい「絵」は見えているのだろうと感じたが、もう一押しの説得力が足りないとも感じた。現実的というより、象徴的な空間なのだから、そこに配置される人物の造形、存在感、台詞、演技の質、衣装、数々の小道具、大道具と空間の縮尺関係などなど、空間を構成する一つ一つの要素を、もっとそぎ落とす方向で検討してみてはどうだろうか。

 

C-1 劇団烏龍茶「くだらない」

そっとたたずむ生身の存在を感じた。目の前でたわいのない会話がためらいがちに始まり、3人の間で小さく空気が動き出し、空間へと滲み出していく。そして、蛇口から水が大きく飛ばされる瞬間、空間が大きく広がった。墓参りで出会った3人のくだらない会話が、やがてそれぞれの母娘の話へと静かに展開していく様は見事だった。冒頭、3人が墓石から登場する意味が最後にわかった時、ぞくっとした。

 

C-2 劇団イン・ノート「賢者会議」

戯曲を読んだときよりも、圧倒的に上演がおもしろかった。終演後の観客の反応からも、皆さんが楽しんだことが伝わってきた。よく稽古されていた。そして、役者が達者だ。具体的な衣装もなく、素舞台にも関わらず、観客の想像力に働きかけ、全編をダレることなく引っ張った。女優2人による笑いも清潔な好感をもった。セットはないのだが、軽やかなダンスによる場面転換は見事であった。今後が期待される。

 

D-1 劇団しろちゃん「曲がったハハハハの人々」(映像上映)

 

短い上演時間に、伏線に満ちた複雑にループする作品を書いたなぁ、と感心しつつも、筋の展開を追うことを迫られる芝居を、好みの問題かもしれないが、あまり楽しめなかった。小道具、大道具、照明による空間の作り方、転換には工夫があり、手腕を感じたが、どこかでみた、借り物のように感じる演技術が気になった。俳優の演技に魅入られているうちに、不思議な物語の世界に引き込まれてみたかった。

 

D-2 演劇企画モザイク「大山デブコの犯罪」

今、なぜこの作品を選んだのだろう。戯曲を読んで、やってみたいと思った一番強烈なイメージはどういうものだったのだろう。インターネット検索すると、1967年初演の『大山デブコの犯罪』は、新宿末廣亭に「体重100キロ前後の女性たちをただ舞台に並べる」といった「見世物の復権」、「既存の演劇の制度に対する批判を展開」とある。全員が白塗り、マスク(的メイク)、同じ衣装で「記号」と化した俳優に、「逆じゃないの?」と疑問符が…。

 

 

志賀 玲子 氏 プロフィール

Shiga Reiko

舞台芸術企画制作者、介護福祉士

 

城崎国際アートセンター館長。

大学卒業後、一般企業勤務を経て、舞台芸術制作事務所設立。

1989年「ヨコハマアートウェーブ89」事務局スタッフを皮切りに、伊丹市立演劇ホール(AI・HALL)、びわ湖ホール「夏のフェスティバル」、京都造形芸術大学舞台芸術センタープロデューサー、(一財)地域創造「公共ホール現代ダンス活性化事業」コーディネイター、大阪大学コミュニケーション・デザインセンター特任教授を歴任。

2021年4月より現職。

2007 年からALSを発症した友人の独居生活「ALS-D プロジェクト」をコーディネート、介護にもあたる。ダンススタジオを併設した京町家で、ダンサー等の友人が資格を取り介護にあたる暮らしは、首都圏外で初の24時間他人介護による在宅独居実現として注目を集めた。