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企画

観劇レビュー おまつ松の下さん

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奈良県 おまつ松の下さん

 

東北連合のレビュー

 

サーチライト。サーチライトとは、特定の方向に強力な光線(ほぼ平行光線)を投射するための反射体を有する装置(Wikipediaより)で、主な利用は探索や監視の照明器具の一種だ。

 この物語の主人公は、自らを世間から外れた絶滅危惧主としている山瀬という男子大学生。

彼は自宅からどこに配信するでもなく、夜な夜な製作・録音している。 

 ある日、番組のファンだという男が山瀬の部屋を訪ねてくる。毎晩壁から聞こえて来る声をきいていた。引っ越す前にハガキを出させて欲しいという男は隣人に住む同級生らしい。

 彼と共にラジオ収録の企画をし、楽しいひとときを過ごす山瀬。しかし、弾まないトークが進む本番中、大学生活を存分に楽しむ長谷川との

格差を明確に感じた山瀬は、長谷川が飲みサー仲間からの電話に出たことをきっかけに収録を中断してしまう。その後、再び二人が会談することはなく、長谷川は予定通り引っ越してしまった。山瀬とのことなどもう薄れてしまっているかもしれない。無数の思い出の一つとして残っているかもしれない。

 山瀬は変わらず一人でラジオを録っている。内容は、他愛ない。嫉妬・諦めと屈折を重ねた身辺話。相も変わらず愚痴話。が、ふいに原稿を丸めて捨た山瀬が語りだす。自分が長谷川に自分と同じタイプなんじゃないかと期待を寄せていたこと。そうではない、自分には眩しすぎる人だと確信し、自分の心を磨り減らしてでも

何処か期待をして収録を迎えたこと。でもやっぱり彼は自分とはおなじじゃなかったこと。畳掛けて語り終えた彼が、「楽しかった」とぽつり、口にしたところで暗闇になり、発言通り楽しそうにオープニングを喋っている二人の収録音が流れてこの舞台は幕を閉じる。

 最初に説明を載せたこの物語の題名とされている

『サーチライト』。作中では山瀬が好きなバンド名として登場する。紹介された曲は三曲で、

「なにかある予感」

「愛」 

「ちぐはぐ」だ。

この三曲は山瀬、長谷川潤、二人の関係性をよく表していると思う。「なにかある予感」はこれから長谷川が訪ねてくる山瀬の状況。「愛」は誰にも聞かれることのなかったラジオ番組を発掘し、愛した長谷川。(愛の重さはここでは考慮しない。)「ちぐはぐ」は世を斜めから見て卑屈に生きている山瀬と、暗いことなんて露しらず、日陰者には眩しいくらい充実した生活を送っている長谷川との価値観の違い。この作品では山瀬と長谷川の追い立ちや性格が必要最低限にしか描かれていなかったため、より二人のずれが強く印象に残った。

 サーチライトの利用は夜間の戦闘機探索ができる反面、自分の居場所が明らかになる。山瀬はこれから何を見つけるのか。たたただ自分のやるせなさを際立たせていきながら光の筋を伸ばし続けるのか。

 この長谷川という男に出会ったことで山瀬は人生を変えることは出来たのだろうか。私は、きっかけを掴み損ねたんじゃないかなあと思う。人間(これはくくりが大きいかもしれない)は

何か琴線に触れる出来事があっても、それを自分の中に取り込み、己を革変していくには尋常じゃないパワーが必要で、日常を変えることはとても難しいことだと思うから。

 実際、山瀬は飲み会で論文の話をしているグループを小難しいやつらだ、流行りのギャグで笑うグループを馬鹿な奴らだ、禁煙であろう道路でタバコを吸う山瀬を注意したおばさんに対してマイナスな感情を抱き、惨めなやつだと自分を自己完結させている。腐心を改善するのは何よりも難しい。他者に求めることが基盤となっている感覚を変えることも難しい。

 最後の語りで山瀬は、「自分しかいないと思っていた絶滅危惧種がもう一人居たら嬉しいと思っちゃうじゃないか」とのような発言をしている。気まぐれな風(にしては強烈だが)のように現れた長谷川に山瀬は拠り所を求めてすがってしまったのだ。

 「恋」は相手を好きな自分を相手にも好きになってほしいと思うもの。長谷川が好きな曲でもある「愛」は見返りを求めない一方的なもの。山瀬は、シンプルに「好き」という言葉を持ってラジオ番組への愛を伝えてくれた長谷川の全てに見返りを求めてしまったのだ。

 私も、弱い人間なので他人に期待を寄せてしまうし色眼鏡をかけてしまいます。観ている時に長谷川の無意識に押されていく山瀬を観てどきまぎしていました。簡単に救いを出されてしまっては綺麗事の作り物の様に感じてしまう。

これは今を生きる若い世代の一部に寄り添った作品だなと思いました。ただ、短編とはいえ軸がシンプルで先の展開が読める作品だと感じる部分もあったので、「こういう人が居るよ」と提示すること以外にも何かあもっと興味深い物になるようにも感じます。

 いや、本当に、日常を変えるのって難しいのだけれど。