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レビュー

審査員講評 登紀子 氏

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A-1 Route「恐怖!奇想天外館」

セットのない中で場面転換を無理なく進めており、情景がちゃんと見える演出が素晴らしかったです。照明も良い仕事をしていました。出演者たちは舞台の上だけでなく、客席の空気を感じる繊細さを持っており、対応力に瞬発性があって「今のうまいなー」と何度も思いました。土台がしっかりした、とても好感度が高い作品でした。

 

A-2 ぽやぽやバケーション「巡り、めぐりて」

まず舞台美術(小道具かもしれません)の紐(綱?)を観た瞬間、アイデアと美しさにハッとさせられ、心を掴まれました。その後の展開も同じようにハッとさせられることが多く、淡々と進むストーリーなのに、目を離せない刺激的な作品でした。マイムに少し物足りなさを感じましたが、静かな演技に込められた苦悩や秘めた情熱には始終リアリティがあり、心がヒリつく印象的な作品でした。

 

A-3 大胆不敵ダイヤモンドダスト「we、weRE、カコウ。」

美しくも激しい作品でした。難しい演出プランが沢山詰め込まれており、俳優に負荷の大きい作品だったと思います。稽古はさぞかし大変だったのでは?と想像しますが、俳優が力強く作品を引っ張っており、素晴らしかったです。静と動が立体的に融合し、短編とは思えない深みのある作品でした。小道具の使い方や衣装デザインもよく、幻想的な雰囲気が素敵な力作でした。

 

B-1 劇団ちゃこーる「口紅と十五」

劇団の熱量が伝わってくる作品でした。万引きへの流れなど、面白かったです。私が過敏すぎるのかもなのですが笑っていいのか戸惑うことがあったり、場面転換で混乱してしまう部分があったので、情景がもっと鮮明になれば、作品が更にグッとよくなると思います。

 

B-2 ギムレットには早すぎる「今ーちゃー」

走るマイムで始まるのっけから仕上がってました。スタッフワークも含めて全てが良かったです。多数の登場人物の全員に味や魅力があり、一人で演じ切った山下さんの豊かな演技力と身体能力が素晴らしかったです。全てが繋がり回収していく後半は圧巻で、小道具を刈り取っていく演出には心底シビれました。演劇の無限の可能性を感じさせてくれる部分も含め、とても感動しました。

B-3 ターリーズ「ファはファンシーのファ」

タイトル通り、遊び心に満ちた作品でした。観客を楽しませたくてしょうがないという思いが随所に見られるハジけた作品ですが、楽しいだけの軽い作品ではなく、太い芯のある素敵な作品でした。全体的にキャストの間の取り方が上手く、トモ役や小雪役の方の空気感など、脇を固めるキャストまで魅力が溢れていました。それゆえ、どのシーンも引き立つものがあり、熱量を肌で感じる作品でした。

 

B-4 劇団ダダ「悦に浸れないなら死ね」

独特の淀んだ空気で進む異色のストーリーで、着想がとても面白い作品でした。この発想や奇妙さは唯一無二なので大切にして欲しいです。(私の力不足だと思いますが)冒頭のシーンの台詞が、真面目に言ってるのか下ネタなのか分からず、入り込むのに少し時間かかってしまいました。が、もしそれが計算された演出なのだとしたら、ヤラレたなーと思います。

 

C-1 餓鬼の断食「或る解釈。」

脚本だけでなく美術まで、分かると面白いネタが散りばめられた作品でした。掘り下げずにサラッと流したり、あるいは全く触れないクールさが格好よかったです。ただ、声量なのか活舌なのか聞き取れない事があり、拾いきれないことが個人的に悔しかったです(私は関西出身なのですが)。人と感想を話したくなるので、その余韻まで含めて作品が地続きなのが素敵です。

 

C-2 劇団ゲスワーク「革命前夜、その後」

俳優の凄まじい集中力と胸に響く発声により、一気に引き込まれました。すべてが胸に飛び込んできて、作品の渦にどんどんのめり込みました。個人的に演劇的発見があり、背筋の伸びる思いです。ラストに向けて盛り上がっていく脚本や演出の仕掛けも素晴らしく、俳優のエネルギーが劇場を満たしていました。

 

C-3 劇団二進数「脇役人生の転機」

完成度の高さに驚きました。大道具・小道具・衣装のテイストは細部までセンスよく、演出にはメリハリがあって密度が高く、実力のある劇団です。俳優陣には既に貫禄があり、オーラを放っておりました。特にジンさんの顔がガラッと変わる時などは鳥肌でした。色んなシーンを鮮烈に思い出せる、心に残る作品。2時間作品を観てみたいです。

 

 

登紀子 氏 プロフィール

アイビス・プラネット代表 プロデューサー

 

元劇団「惑星ピスタチオ」総合プロデューサー(劇団は2000年に解散)。

解散後に「アプリコットバス」として個人事務所を設立したが、

原点の惑星ピスタチオを思う気持ちを捨てられず、事務所名を「アイビス・プラネット」に改名。

現在の活動拠点は関東。

舞台の企画・製作、プロデュース、劇団制作、当日運営、配信制作ワークショップなど。

最近は映像の収録や配信も行っている。

ピーズラボ、ポップンマッシュルームチキン野郎、黄金のコメディフェスティバル、西田シャトナー作品などのプロデュース多数。

2016年佐藤佐吉賞 特別賞受賞。